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第三章 笑う宝石
金と青と3
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それからは堂々とカドに纏わりつけるようになった。
俺は弟が出来たみたいで無性に嬉しかった。
水の地獄は植物が多様だ。何にでも興味を持つカドに、その名前や特徴を教えて感動されたり、感心されたりするだけでむず痒くなって、得意になった。
その日は一面に咲く紫陽花が波のようにうねる丘にカドを連れて行った。
「海が丘に流れてきたみたいだね」
カドがシロキさんより少し丸みを帯びた目で笑う。
「シスは俺とはたくさん話すのに、シロキさんとは目も合わさないよね」
恥ずかしさで何も言えなくなり、俯いた。
「いいんだ。シロキさんのこと好きだから緊張するんだよね」
そう言って柔らかい動きで紫陽花の海に入って行く。
「俺はシロキさんに似ているけど、緊張しないだろ」
そして水しぶきのように見える白い紫陽花の塊の中で止まり、こっちを見た。
もうばれているなら、と開き直った。
「そうだな、不思議だ」
「俺にはシロキさんにあるものが欠けているから。欠片の部分がなくて、むしろ普通の神様らしいんだ」
「お前、何言ってるんだ? 全然わからないぞ」
俺は波のような青い紫陽花を掻き分けてカドに近づく。太陽を浴びて黒く光るカドの髪を見て、シロキさんのことを夜の中でしか知らないことを思い出し、少し悲しくなる。
「シロキさんの正体は欠片だよ。俺にはシロキさんが奪われた時の記憶があるんだ」
風が波を作る中で、カドからふと笑顔が消えた。
「シロキさんが欠片からできているってことか? 何の欠片だ?」
「それは――」
ひと際強い風が吹いて、急に波に呑みこまれたかのように音と視界が奪われる感覚がした。
「――冗談だろ」
カドが大人びた悲しい表情で俺を見ている。
「俺にはシロキさんの持つ欠片が欠けている。ね、だからシスの反応はすごく正しいと思う。それだけだよ」
俺は弟が出来たみたいで無性に嬉しかった。
水の地獄は植物が多様だ。何にでも興味を持つカドに、その名前や特徴を教えて感動されたり、感心されたりするだけでむず痒くなって、得意になった。
その日は一面に咲く紫陽花が波のようにうねる丘にカドを連れて行った。
「海が丘に流れてきたみたいだね」
カドがシロキさんより少し丸みを帯びた目で笑う。
「シスは俺とはたくさん話すのに、シロキさんとは目も合わさないよね」
恥ずかしさで何も言えなくなり、俯いた。
「いいんだ。シロキさんのこと好きだから緊張するんだよね」
そう言って柔らかい動きで紫陽花の海に入って行く。
「俺はシロキさんに似ているけど、緊張しないだろ」
そして水しぶきのように見える白い紫陽花の塊の中で止まり、こっちを見た。
もうばれているなら、と開き直った。
「そうだな、不思議だ」
「俺にはシロキさんにあるものが欠けているから。欠片の部分がなくて、むしろ普通の神様らしいんだ」
「お前、何言ってるんだ? 全然わからないぞ」
俺は波のような青い紫陽花を掻き分けてカドに近づく。太陽を浴びて黒く光るカドの髪を見て、シロキさんのことを夜の中でしか知らないことを思い出し、少し悲しくなる。
「シロキさんの正体は欠片だよ。俺にはシロキさんが奪われた時の記憶があるんだ」
風が波を作る中で、カドからふと笑顔が消えた。
「シロキさんが欠片からできているってことか? 何の欠片だ?」
「それは――」
ひと際強い風が吹いて、急に波に呑みこまれたかのように音と視界が奪われる感覚がした。
「――冗談だろ」
カドが大人びた悲しい表情で俺を見ている。
「俺にはシロキさんの持つ欠片が欠けている。ね、だからシスの反応はすごく正しいと思う。それだけだよ」
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