137 / 331
第三章 笑う宝石
救いの魂1
しおりを挟む
ナイト
身体の消えた魂を眺めていた。思っていた以上に美しい。「蜘蛛を殺しときゃ良かった」なんて吐き捨てたやつのものをとは信じ難い。金色が透き通っている。
「恋でもしたのか」
後ろからアドバンドの声がした。
「何だ、それ」
振り返りながら俺は尋ねた。言葉の意味は分かるけれど、感覚は知らない。それに意味通りだとして、悪魔になりかけの人間の魂に「恋」とは何だ。
「冗談だよ、あんまり熱心に見ているから」
確かにそうだ。遠くで鏡にもたれかかっている弱々しいシロキをよそに熱中していた。自分がとても薄情な気がして嫌な気持ちになる。
「これ、どうしたら良いだろうか」
「それとこれもな」
アドバンドが自分の胸に柔らかく抱いた青いガラス玉に目を落とす。そうだ、トリプガイド、すっかり忘れていた。
「そうだな……まずガジエアは俺が預かっておくよ。カドがこの状態じゃ、またいつ俺の血が必要になるかわからないし、シロキには絶対に触らせないようにする。でもこの魂とトリプガイドは……困ったな」
「俺が両方、預かろうか」
アドバンドの落ち着いた口調で言われると全て正しいように聞こえてる。
「炎の地獄へ持ち帰るのか? その後どうするんだ?」
「トリプガイドは迷うところだが、少なくともこの魂は人間の世界に還すよ」
それより良い方法はないと思えた。でも……
「炎の地獄はどこから魂を還しているんだ?」
「それは火山口みたいなところ――」
「だめだ」
俺は鋭く言った。
「え?」
滅多なことでは動揺しないアドバンドが困惑の表情を浮かべた。
「――どうしてだ?」
息を呑んで真剣な声で聞いてくる。
「いや、何となく、海とかの方がいいな、と思って」
しばらくの沈黙があった。思慮深い目で俺をじっと見つめてアドバンドが言った。
「お前、シロキさんに似てきたな」
確かに今のはシロキっぽい。
「やめろよ、傷つくな」
「じゃあ、ちゃんと理由を教えてくれよ。シロキさんみたいな、ぼんやりした訳のわからない寝言っぽい話ではなく」
そんな言い方するなよ、と思う。自分とカドが言うのは良いが、他のやつがシロキを悪く言うと否定したくなる。
俺はむっとした顔をしていただろうか。アドバンドの目元が楽しそうに緩んでいる。
こいつ絶対からかってる。
「完全に俺の趣味で悪いんだが、この魂の色には海が似合う気がするんだ。一番美しく見える場所から還してやりたい」
また馬鹿にされるかと思ったが、意外にもアドバンドは真面目な声で答えた。
「そうか……その男の魂、もう一度良く見せてくれ」
そう言いながら金色の魂に寄せる横顔が見慣れたシロキのものと違って、これもいいな、と思う。
シロキの涼し気で掴みどころのない顔はきれいだが、アドバンドのは現実味と安心感を与えてくれる整い方だ。トリプガイドの揺れる青と魂の爆ぜる金色に染まって、それでもなお安定した、優しい横顔の口がゆっくり動いた。
「そうかもな。じゃあ、このトリプガイドも一緒に海に堕とそう」
身体の消えた魂を眺めていた。思っていた以上に美しい。「蜘蛛を殺しときゃ良かった」なんて吐き捨てたやつのものをとは信じ難い。金色が透き通っている。
「恋でもしたのか」
後ろからアドバンドの声がした。
「何だ、それ」
振り返りながら俺は尋ねた。言葉の意味は分かるけれど、感覚は知らない。それに意味通りだとして、悪魔になりかけの人間の魂に「恋」とは何だ。
「冗談だよ、あんまり熱心に見ているから」
確かにそうだ。遠くで鏡にもたれかかっている弱々しいシロキをよそに熱中していた。自分がとても薄情な気がして嫌な気持ちになる。
「これ、どうしたら良いだろうか」
「それとこれもな」
アドバンドが自分の胸に柔らかく抱いた青いガラス玉に目を落とす。そうだ、トリプガイド、すっかり忘れていた。
「そうだな……まずガジエアは俺が預かっておくよ。カドがこの状態じゃ、またいつ俺の血が必要になるかわからないし、シロキには絶対に触らせないようにする。でもこの魂とトリプガイドは……困ったな」
「俺が両方、預かろうか」
アドバンドの落ち着いた口調で言われると全て正しいように聞こえてる。
「炎の地獄へ持ち帰るのか? その後どうするんだ?」
「トリプガイドは迷うところだが、少なくともこの魂は人間の世界に還すよ」
それより良い方法はないと思えた。でも……
「炎の地獄はどこから魂を還しているんだ?」
「それは火山口みたいなところ――」
「だめだ」
俺は鋭く言った。
「え?」
滅多なことでは動揺しないアドバンドが困惑の表情を浮かべた。
「――どうしてだ?」
息を呑んで真剣な声で聞いてくる。
「いや、何となく、海とかの方がいいな、と思って」
しばらくの沈黙があった。思慮深い目で俺をじっと見つめてアドバンドが言った。
「お前、シロキさんに似てきたな」
確かに今のはシロキっぽい。
「やめろよ、傷つくな」
「じゃあ、ちゃんと理由を教えてくれよ。シロキさんみたいな、ぼんやりした訳のわからない寝言っぽい話ではなく」
そんな言い方するなよ、と思う。自分とカドが言うのは良いが、他のやつがシロキを悪く言うと否定したくなる。
俺はむっとした顔をしていただろうか。アドバンドの目元が楽しそうに緩んでいる。
こいつ絶対からかってる。
「完全に俺の趣味で悪いんだが、この魂の色には海が似合う気がするんだ。一番美しく見える場所から還してやりたい」
また馬鹿にされるかと思ったが、意外にもアドバンドは真面目な声で答えた。
「そうか……その男の魂、もう一度良く見せてくれ」
そう言いながら金色の魂に寄せる横顔が見慣れたシロキのものと違って、これもいいな、と思う。
シロキの涼し気で掴みどころのない顔はきれいだが、アドバンドのは現実味と安心感を与えてくれる整い方だ。トリプガイドの揺れる青と魂の爆ぜる金色に染まって、それでもなお安定した、優しい横顔の口がゆっくり動いた。
「そうかもな。じゃあ、このトリプガイドも一緒に海に堕とそう」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~
きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。
しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。
地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。
晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる