奇跡の神様

白木

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第三章 笑う宝石

救いの魂1

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ナイト


 身体の消えた魂を眺めていた。思っていた以上に美しい。「蜘蛛を殺しときゃ良かった」なんて吐き捨てたやつのものをとは信じ難い。金色が透き通っている。

「恋でもしたのか」

 後ろからアドバンドの声がした。

「何だ、それ」

 振り返りながら俺は尋ねた。言葉の意味は分かるけれど、感覚は知らない。それに意味通りだとして、悪魔になりかけの人間の魂に「恋」とは何だ。

「冗談だよ、あんまり熱心に見ているから」

 確かにそうだ。遠くで鏡にもたれかかっている弱々しいシロキをよそに熱中していた。自分がとても薄情な気がして嫌な気持ちになる。

「これ、どうしたら良いだろうか」

「それとこれもな」

 アドバンドが自分の胸に柔らかく抱いた青いガラス玉に目を落とす。そうだ、トリプガイド、すっかり忘れていた。

「そうだな……まずガジエアは俺が預かっておくよ。カドがこの状態じゃ、またいつ俺の血が必要になるかわからないし、シロキには絶対に触らせないようにする。でもこの魂とトリプガイドは……困ったな」

「俺が両方、預かろうか」

 アドバンドの落ち着いた口調で言われると全て正しいように聞こえてる。

「炎の地獄へ持ち帰るのか? その後どうするんだ?」

「トリプガイドは迷うところだが、少なくともこの魂は人間の世界に還すよ」

 それより良い方法はないと思えた。でも……

「炎の地獄はどこから魂を還しているんだ?」

「それは火山口みたいなところ――」

「だめだ」

 俺は鋭く言った。

「え?」

 滅多なことでは動揺しないアドバンドが困惑の表情を浮かべた。

「――どうしてだ?」

 息を呑んで真剣な声で聞いてくる。

「いや、何となく、海とかの方がいいな、と思って」

 しばらくの沈黙があった。思慮深い目で俺をじっと見つめてアドバンドが言った。

「お前、シロキさんに似てきたな」

 確かに今のはシロキっぽい。

「やめろよ、傷つくな」

「じゃあ、ちゃんと理由を教えてくれよ。シロキさんみたいな、ぼんやりした訳のわからない寝言っぽい話ではなく」

 そんな言い方するなよ、と思う。自分とカドが言うのは良いが、他のやつがシロキを悪く言うと否定したくなる。

 俺はむっとした顔をしていただろうか。アドバンドの目元が楽しそうに緩んでいる。

 こいつ絶対からかってる。

「完全に俺の趣味で悪いんだが、この魂の色には海が似合う気がするんだ。一番美しく見える場所から還してやりたい」

 また馬鹿にされるかと思ったが、意外にもアドバンドは真面目な声で答えた。

「そうか……その男の魂、もう一度良く見せてくれ」

 そう言いながら金色の魂に寄せる横顔が見慣れたシロキのものと違って、これもいいな、と思う。

 シロキの涼し気で掴みどころのない顔はきれいだが、アドバンドのは現実味と安心感を与えてくれる整い方だ。トリプガイドの揺れる青と魂の爆ぜる金色に染まって、それでもなお安定した、優しい横顔の口がゆっくり動いた。

「そうかもな。じゃあ、このトリプガイドも一緒に海に堕とそう」

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