奇跡の神様

白木

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第二章 鏡の地獄

人間の神様へ4

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「――震えてたんだ」

 ナイトが足元の真っ白な雪を見つめたまま言った。

「ん?」

「シロキがさ、カドの記憶を消した日だよ、かわいそうだった」

 カドがナイトの指にそっと触れる。

「落ち込まないでよ。シロキさんが悲しむよ」

 何だか悪いことをしたような気がして、俺は話を変えた。

「ナイト、お前その後どうしたんだ? 鏡の地獄が……空を失ってから」

「そのことなんだが、お前たちにまだ全然話してないだろ。蜘蛛を助けた男がその後どうしたのか。あいつが盗み出したガジエアとガラス玉……トリプガイドがどうなったのかも」

「確かにそうだな。教えてくれるのか?」

「そのつもりだ。しばらく大人しかった極楽が、去年から急に騒ぎ出したことにも関係のあることだし。たた、夜の間に移動をしたいんだ。そこで全部伝えるよ」

「どこに行くんですか? 海岸沿いからあまり離れると僕は門に戻れなくなってしまいます」

 そうだった、ルキルくんは海をまたぐ移動は出来ないと言っていたな。

「大丈夫だよ、ルキルくん。海からそう離れなければ問題ないだろ? この海岸いの港町に人間の神様がいるんだ。今からそこに行く」

 カドが目を輝かせた。

「人間の神様? シロキさんがずっと会いたがってた」

「あいつ、人間の神様に会いたがってたのか?」

「うん。人間の神様の持ちものを分けてもらいたいけど、勝手に自分のものにするわけにいかないからって」

「当たり前だろ。他の神様のものまで欲しがってるのか、あいつは」

 ルキルくんが少し困った顔をしているのは気のせいだろか。

「人間の神様って……それはマツリくんの神様ですよね」

「そう、マツリとイサリの神様だ。ルキルくん知ってるのか?」

「ええ、まあ……」

                               

 ルキルくんが口籠る。極楽のことといい、人間の神様といい、ルキルくんはこの世界の仕組みを良く知っている。

 太古の神様なのだから当たり前なのだが、幼い無邪気な姿についそのことを忘れてしまう。俺たちに付き合ってるのは単にシロキさんが好きだから、だけだろうか。

 ルキルくん自身にも何か理由がありそうだ。秘密があってもルキルくんは上手く隠し通すことができそうだが、わかりやすいと散々からかわれているシロキさんにすら、まだ他の一面があるように思うのは、俺がひねくれているからか。

「何か事情があるならここで待っていてくれ。俺はただ、預けていたガジエアを受け取りに行くだけだから」

 ナイトが不安気なルキルくんに声をかける。

 ガジエアは確か四本だ。カドを切った一本、シロキさんを刺した一本、あとファミドが刺されたものをナイトが奪っている。

 今、それを持ち歩いている様子はないから、人間の神様が安全な場所で保管してくれているのだろう。

「僕も行きます」

 ルキルくんがサラサラした髪を揺らして言った。前髪の雪も同じ音を立てて落ちた。

 ナイトが静かに立ち上がりながら言う。

「じゃあ、そこで人間の神様を待ちながらみんなに話の続きをするよ。蜘蛛を助けた男とガジエアとトリプガイドの行方、鏡の地獄が無くなった後、俺が今まで何をしていたか、最近になって作成者が急に動き出した理由、これからどうやってあいつを消すのか、それを全部」

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