奇跡の神様

白木

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第二章 鏡の地獄

人間の神様へ2

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「あ、いえ、ナイトさんを責めたわけじゃありません。ごめんなさい。ナイトさんはいっぱい傷ついてきたのに、僕なんて言い方をしてしまったんだろう。ナイトさんは何も悪くない、優しいシロキさんの憧れの悪魔です」

 ルキルくんが慌てて首を振り、長いまつ毛に乗っていた雪が、夜の空気に散る。ファミドも驚いて目を開く。やっぱりかわいい。

「悪気がないことなんてわかってるよ」

 ナイトが穏やかにルキルくんを見て応える。

「――鏡の地獄の空が閉ざされた時、俺が一番に考えたのは極楽のことでも太陽のことでもなく君のことだよ。もう月が見られなくなるなって、そう思った」

 ルキルくんの目が濡れて、深い海と雪の夜に光る。

「何で、そんなこと言うの……」

「一緒に悲しんでくれただろう」

「何もしてあげられませんでした。僕はあなたに償いを――」

「悲しんでいることを知って欲しかったんだ。君は俺を救ってくれた神様だよ」

 絶対泣きだすな、と思ったので俺は寝ているカドをナイトにそっと預けて立ち上がり、ルキルくんの肩を抱いた。ファミドがルキルくんの顔を舐めている。思えば俺がこんなことをしなくてもルキルくんには自分の使いがいるのに。そういえばシロキさんも悲しい時に月を見ると言っていたな。

「あれ? ナイト……どうしたの?」

 カドがまだ眠そうな目を開いた。

「起きたか? 何でもない。ちょっと昔の話の続きをしてた」

 俺の代わりにナイトが答えた。

「ああ、シロキさんが俺の記憶を消した話とか?」

 カドが目をこすりながら何でもなさそうに言った。

「シロキさんは馬鹿だよな。消したかったのって俺が知っていたシロキさんの秘密だろ? だったら何度記憶を消したって無駄なのにさ。俺にはシロキさんの本当に気持ちなんて直ぐにわかってしまうから。そういう抜けているところが好きなんだけど」

 ルキルくんがカドを見て泣き笑いで言った。

「僕もそういうところが好きです。シロキさんがカドさんの記憶を消すほど忘れて欲しかった秘密ってなんだったんでしょうか」

「うーん、シロキさんが知られるのを物凄く嫌がっていたから言えないけど、俺には何で隠したいのかわからないよ。だってシロキさんの心だよ? 綺麗に決まってる」

 ナイトが溜息をついた。

「何のことだか知らないが、あいつ、また一人で妄想を膨らませた挙句、こじらせて恥ずかしくなっただけだろ。お前も大変だな、情緒不安定な神様の使いだと。そんなことでいちいち記憶まで消されるんだから」

「うん、でもシロキさんは成長したんだよ」

 カドが雪に手をついて身体を起こす。

「シロキさん、去年の冬に、俺の心を鏡で覗いたんだ。記憶を奪ったはずなのにまた秘密を知られていて驚いたんじゃないかな。でもシロキさんは取り乱したりしなかったよ。むしろ満足そうな顔をしてた」

 ナイトがカドを怪訝そうに見た。

「何?」

「シロキは、何でお前の心を映したりしたんだ?」

 戸惑いながら聞く。そうだ、ナイトはシロキさんの記憶を見ていない。もしかしてカドが消したはず記憶を取り戻していないか疑って、こっそり確かめたのかと思っているんだろう。

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