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第二章 鏡の地獄
地獄の終わり6
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僕とは目も合わさず、空の作成者の方を真剣に見ているナイトの横顔が極楽の光に照らされて本当にきれいで、何も言えなくなる。
「そんなに寂しいなら俺を連れて行け」
言葉に詰まっている僕には一瞥もくれず、ナイトが空に向かって言った。
「それは駄目だ」
これは黙って無視されているわけにはいかない。光の網が、すっとナイトに移動してくる。ナイトが極楽に連れ去られてしまう。
僕は作成者を見上げて声を上げた。
「お前、誰でもいいのかよ。僕を連れて行けよ」
何だか作成者を奪い合っているような形になって不本意だが仕方ない。
空が揺れ、同調して光の鎖も揺れる。光が音もなく動き、ナイトの空に向かって伸ばした長い指に絡まる。
「おい、手、引っ込めろよ。空を閉じるぞ」
湖が静まり返った。ナイトがやっと僕を見た。
「――お前、どうするって?」
「この空を閉じて、極楽との扉を全て断ち切るよ」
空で息を呑む音がした。次の瞬間、空から押し潰されるような圧力と共に大きな腕が降りて来た。作成者は自分の身体を自在に拡張する。
どの大きさが本来のものなのか、僕にもわからない。とにかくその大きな手が、今ナイトに向かって伸ばされた。
囲んで纏わりついていた鏡の盾を感情にまかせて破り自由になると、僕はナイトに覆いかぶさった。
「今、僕を連れて行かないってことは、僕を永遠に失うということだよ」
肩越しに伸びてきた冷たい指に触れてそう言った。庇い合う僕とナイトを見てかわいそうだと思う気持ちはこいつにあるだろうか。
いや、いっそこんな僕たちを面白いとか可愛いとか思うくらいの心の余裕を持って欲しい。そうして僕の願いを黙って叶えるなら許してあげる。
――こいつがそんな心の機微がわかる奴ならこんな世界は生まれていないか。
僕らの身体の周りを逡巡してなぞる指を見て思う。
空を閉じると言われ、勢いで出てきてしまったけれど、どうしたら良いのか引っ込みがつかなくなっているんだろう。
何やってんだよ……覚悟を決めてから出て来いよ。
その指がナイトの背中でふと止まった。ナイトは僕の胸に顔を埋めたまま動かない。駄目だ、このまま指先が背中に触れたら僕はもう我慢できずに動いてしまう。お願い、今、止めて。僕だけを連れて行って。これからずっと極楽でお前だけのものなってやるから。
――僕の願いなんて聞いてくれるわけないか。
白く冷たい指が抵抗をしない悪魔の背中に触れるのを見て僕は空を仰いだ。作成者と目が合う。あいつの目の色が湖を反射していつにもまして暗く澄んでいる。
大きく繊細な指が僕を見て震え、怯えるようにナイトの肩を離れた。大きな掌が頭上の光りを遮って止まる。次の瞬間、それは僕らから離れ、湖に漂っていた白い鳥たちを一掻きで掬った。
――僕らをこの世界から奪うのを止める代わりに、祈りの鳥を連れ去るの? そんなの酷いよ。この鳥はナイトの優しさそのものなんだ。お前が一番見てきたじゃないか。
一羽、一羽が優しい祈りなんだ。僕に似てると言ってくれた、白い鳥を奪わないで。
「そんなに寂しいなら俺を連れて行け」
言葉に詰まっている僕には一瞥もくれず、ナイトが空に向かって言った。
「それは駄目だ」
これは黙って無視されているわけにはいかない。光の網が、すっとナイトに移動してくる。ナイトが極楽に連れ去られてしまう。
僕は作成者を見上げて声を上げた。
「お前、誰でもいいのかよ。僕を連れて行けよ」
何だか作成者を奪い合っているような形になって不本意だが仕方ない。
空が揺れ、同調して光の鎖も揺れる。光が音もなく動き、ナイトの空に向かって伸ばした長い指に絡まる。
「おい、手、引っ込めろよ。空を閉じるぞ」
湖が静まり返った。ナイトがやっと僕を見た。
「――お前、どうするって?」
「この空を閉じて、極楽との扉を全て断ち切るよ」
空で息を呑む音がした。次の瞬間、空から押し潰されるような圧力と共に大きな腕が降りて来た。作成者は自分の身体を自在に拡張する。
どの大きさが本来のものなのか、僕にもわからない。とにかくその大きな手が、今ナイトに向かって伸ばされた。
囲んで纏わりついていた鏡の盾を感情にまかせて破り自由になると、僕はナイトに覆いかぶさった。
「今、僕を連れて行かないってことは、僕を永遠に失うということだよ」
肩越しに伸びてきた冷たい指に触れてそう言った。庇い合う僕とナイトを見てかわいそうだと思う気持ちはこいつにあるだろうか。
いや、いっそこんな僕たちを面白いとか可愛いとか思うくらいの心の余裕を持って欲しい。そうして僕の願いを黙って叶えるなら許してあげる。
――こいつがそんな心の機微がわかる奴ならこんな世界は生まれていないか。
僕らの身体の周りを逡巡してなぞる指を見て思う。
空を閉じると言われ、勢いで出てきてしまったけれど、どうしたら良いのか引っ込みがつかなくなっているんだろう。
何やってんだよ……覚悟を決めてから出て来いよ。
その指がナイトの背中でふと止まった。ナイトは僕の胸に顔を埋めたまま動かない。駄目だ、このまま指先が背中に触れたら僕はもう我慢できずに動いてしまう。お願い、今、止めて。僕だけを連れて行って。これからずっと極楽でお前だけのものなってやるから。
――僕の願いなんて聞いてくれるわけないか。
白く冷たい指が抵抗をしない悪魔の背中に触れるのを見て僕は空を仰いだ。作成者と目が合う。あいつの目の色が湖を反射していつにもまして暗く澄んでいる。
大きく繊細な指が僕を見て震え、怯えるようにナイトの肩を離れた。大きな掌が頭上の光りを遮って止まる。次の瞬間、それは僕らから離れ、湖に漂っていた白い鳥たちを一掻きで掬った。
――僕らをこの世界から奪うのを止める代わりに、祈りの鳥を連れ去るの? そんなの酷いよ。この鳥はナイトの優しさそのものなんだ。お前が一番見てきたじゃないか。
一羽、一羽が優しい祈りなんだ。僕に似てると言ってくれた、白い鳥を奪わないで。
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