奇跡の神様

白木

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第二章 鏡の地獄

地獄の終わり5

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「自由なんて神様を失ってまで手にいれる価値ないだろ」

 その言葉に空が一段と激しく震える。

 僕が作成者と一つになってあげる。

 極楽は最近ずっと寂しさで揺らめいていた。作成者は僕がそばに行けば気持ちが落ち着くはずだ。僕があいつの悪い癖も、考え方も変えてあげる。僕の大切なものを傷つけいように。

「ねえ、離して。大丈夫、全て上手くいく。僕はずっと見ているから」

「一方的に見られてたって意味ないんだよ」

 その時、雨の重さに耐えられなくなった曇り空が雷に割られて落ちてくるよう音がした。

 見上げると夜空の裂け目から作成者が顔を出していた。その目は全身湖に浸る僕に釘付けになっている。

 遅かったじゃないか。小心者の作成者にしては良く耐えた方だ。

「極楽がどうしたんだよ、作成者なんてただの根暗だろ。造るだけ造っておいて後は俺ら任せだ。そんな奴、放っておけよ」

 ナイトは最後の方の言葉を空から覗く作成者を見て叫んだ。

 作成者がナイトに辛く当たるのは大切なものを奪われるのが怖いから。

 僕に理想を投影してきたのはわかってる。特別な思いを込めて作ってくれたのは有り難いが、一体どれだけ昔の話だ? いつまで過去に捕らわれているんだよ。

 僕がそのままもう一歩暗い深みに入ったのを合図に、空から細かな光の結晶が、連なる鎖になって降りて来て僕の周りを囲った。

 作成者と目が合う。無表情なようで僕にはひどく動揺しているのがわかる。

 ああ、こいつに問いただしたいことがたくさんある。

 作成途中の悪魔にガジエアとトリプガイドを盗まれて、カドや鏡の門が傷ついたのはこいつのせいだけれど、一体あの日、何があったんだ? 

 大切な道具を奪われ、逃げられるなんて、一体何やってんだよ。 

 どうせ、作成以外たいしてやることもなく、極楽をぶらぶら歩きまわってるだけだろ。

 光の鎖が不規則に僕を絡め取ろうと落ちてくる。その時、光が僕の周囲で砕け散った。

 気がつくとナイトが僕を鏡の盾で囲み、包んでいた。光の網が僕に届く前に反射しては、はじけて消えていく。

 夜の湖と鏡に反射する光の美しさに目を奪われ、事の重大さに気がつくのに一呼吸かかった。

「ナイト、やめて。何しているのかわかってるの」

 極楽にこんなにあからさまに反抗したのは蜘蛛を助けた男とこいつくらいだろう。

 悪魔になる魂はもれなく神様より優秀で真面目だから、反抗する時の逆方向への振り幅も大きいのか。 弾けて、舞い続ける光の粒を見ながら僕はもう一度叫んだ。

「ナイト、僕が世界を直すから、正しく変えるから、こんなことするな」

 全然返事がないと思ったら僕のことなど見ていなかった。悲しいことに作成者すら僕を見ていない。 今、ナイトと作成者はお互いをじっと見つめ合っている。

 二人とも顔から感情がつかみにくい傾向があるが、それが今夜は特にひどい。暗い湖の底と月の無い夜の空が見つめ合っているかのように、お互い微かな影が奥で揺れるだけの瞳で語り合っている。もしかしたら静かに罵り合っているのかも知れない。

 ――こいつらなんなんだよ。僕を無視して。ひどいじゃないか。

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