奇跡の神様

第二章 鏡の地獄

地獄の終わり4

　僕は、ナイトをどうやって救おうかずっと考えていた。

　そしてやっと決心した解答を口に出した。もう少し、落ち着いてからと思っていたのだけれど、気分が昂っている今日みたいな日に実行に移した方がやりやすい。

「それに、極楽に行ったら僕の一部から新しい鏡の神様を作ってもらう。逆にして考えてみたんだ。僕が新しい使いと門を持つんじゃなく、カドとお前が新しい神様を持つんだ。ねえ、僕はいじけて言っているんじゃない。これでも考えたんだ、カドとお前が幸せになれる方法。作成者は、僕と引き換え位でなければ願いは叶えてくれないんだよ」

　ナイトが僕を刺激しないように音を立てずに湖に入る。

「シロキ、本当に勘弁してくれよ。何なんだよ、いきなり鏡の地獄に入って来てたかと思えば、カドに気持ちを知られたからもう会えないとか、極楽に行くとか、新しい神様を作るとか……全然理解が追いつかない。なあ、そんな寒いところにいないでこっちに来い」

　そう言って伸ばすナイトの腕は僕のよりずっと逞しい。

　ずるいよ……そんな考えが頭をよぎる。作成者に文句を言ってやらなくちゃ。

　僕はナイトに背を向け湖の中心に向かってて少しずつ進んだ。

　――今夜、このまま極楽へ行こう。

　決心が揺らいでしまうから、触れたり、見たりしては駄目だ。

「なあ、何とか言えよ。水、怖いんだろ。戻って来いって」

　僕は肩が浸かる深さまで湖に身を沈めた。祈りの鳥が僕を囲んでついてくる。

　水が怖いのだって僕のせいじゃない。極楽のあいつのせいだ。

　あいつが僕から抜き忘れた記憶なのか、意図的に残したのか知らないが。

　鏡の地獄の空が極楽につながっているのなら、作成者は今の僕の姿を見て、耐えられずに現れるだろう。水に沈みそうな僕の姿を見て黙っていられるはずがないんだ。

「おい、何してるんだよ！　俺だって新しい神様なんていらないんだよ。俺とカドがお前を巻き込まないようにどれだけ――」

　ガジエアに刺されたカドに縋りつく僕のような取り乱し方で、ナイトが叫んでいる。

　止めて欲しくて、心配されることを期待してこんなことしているんじゃない。僕は本気だ。僕が極楽に行けば全て解決する。

　僕の意図がわかるのか、行く道を開けるように祈りの鳥が左右に分かれていく。極楽から見下ろしたら、それこそ大きな白い鳥が羽を広げているみたいに見えるだろう。

　――夜空がざわつくのを感じた。

　僕は本当は水の中に沈んだって苦しくなんてない。記憶がよみがえって怖いだけだ。それでも、作成者は僕のことを助けに来る。

　さあ、連れて行けよ、と立ち止まり空を見上げた時、極楽より先にナイトに腕をつかまれた。

「なあ、お願いだから。どうしても行くなら――俺も連れて行ってくれ」

　僕は肩越しにナイトを振り返り、笑顔で首を振った。

「僕の呪縛から解かれて自由になって」