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第二章 鏡の地獄
閉じた地獄11
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次の日の夜にふとナイトに会いたくなった。
何故かわからないけれど、急に会いたくなった。たまにそういうことがある。相変わらず勘の良いカドが僕に言う。
「シロキさん、鏡の地獄に行ってくれば。ナイトのことが気になるんでしょ」
「うん……別に今までも毎日会っていたわけじゃないけど、昨日の夜は――特別だったろ? 魂を連れずに一人で鏡の地獄に戻って、あいつ今頃どうしているんだろか」
「俺もずっと同じことを考えていたよ。シロキさん、行って俺の分まで慰めてあげて。自分を頼っていたか弱い魂すら消えて、冷たい冬の地獄で、ナイトが独りでいると思うと苦しくなるんだ」
「やっぱりお前は僕よりずっとしっかりしてるね」
僕は鏡を撫でながら言った。これもやっぱり冷たくて気持ちが良い。
「シロキさんは……神様らしくなったね。ねえ、シロキさん、俺、知ってるんだ……いや、でも、うんう、やっぱりいいんだ」
心が騒めく。あのことだったらどうしよう。平静を装うことすらできず、僕は顔を覆って尋ねた。
「――何を知っているの?」
「ごめん、シロキさん。本当にごめん。今のは忘れて」
「何を知ってるの! 言って!」
僕はカドが門に呑まれた時以来の大きな声を出していた。
駄目だ、違うことかも知れないじゃないか、落ち着かないと、そう思うのに鼓動が早まるのを押さえられない。
「落ち着いてシロキさん。大丈夫、誰にも言わないから。シロキさんの本当の気持ちなんて――」
ああ、どうしよう。やっぱりカドに隠し事なんてできない。僕は顔を両手で覆ったままカドを問い詰める。とても顔なんて上げられない、見られたくない。
「いつから知っていたの?」
「ずっと前からだよ。融合して全身が鏡になったから知ったわけじゃない。シロキさんの魂を覗いたりもしていない。信じて。シロキさん、ごめんね、隠しておきたかったんだよね。俺とシロキさんの秘密にしよう。俺を信じて」
僕は何も言わずに鏡の地獄への扉を開き飛び出した。
ずっと前からってどういうことだ? 意味がわからない。
カドはわかってない。僕はカドに知られたからこんなに動揺しているのに、それなのに二人の秘密にしようだなんて。
あの子のきれいな神様でいたかったのに。そうじゃなきゃ僕には存在する意味がない。
カドの記憶を消さなくちゃ。カドが融合した時の苦しい記憶を思い出さないように、なんて尤もらしい言い訳をすれば良い。
今度は絶対悟られないように深く心にしまうんだ、注意深く、どうとでも取れるような曖昧な態度で振舞うんだ、飛び込んだ鏡の地獄の雪に身体を預け、そんなことを考えていた。
何故かわからないけれど、急に会いたくなった。たまにそういうことがある。相変わらず勘の良いカドが僕に言う。
「シロキさん、鏡の地獄に行ってくれば。ナイトのことが気になるんでしょ」
「うん……別に今までも毎日会っていたわけじゃないけど、昨日の夜は――特別だったろ? 魂を連れずに一人で鏡の地獄に戻って、あいつ今頃どうしているんだろか」
「俺もずっと同じことを考えていたよ。シロキさん、行って俺の分まで慰めてあげて。自分を頼っていたか弱い魂すら消えて、冷たい冬の地獄で、ナイトが独りでいると思うと苦しくなるんだ」
「やっぱりお前は僕よりずっとしっかりしてるね」
僕は鏡を撫でながら言った。これもやっぱり冷たくて気持ちが良い。
「シロキさんは……神様らしくなったね。ねえ、シロキさん、俺、知ってるんだ……いや、でも、うんう、やっぱりいいんだ」
心が騒めく。あのことだったらどうしよう。平静を装うことすらできず、僕は顔を覆って尋ねた。
「――何を知っているの?」
「ごめん、シロキさん。本当にごめん。今のは忘れて」
「何を知ってるの! 言って!」
僕はカドが門に呑まれた時以来の大きな声を出していた。
駄目だ、違うことかも知れないじゃないか、落ち着かないと、そう思うのに鼓動が早まるのを押さえられない。
「落ち着いてシロキさん。大丈夫、誰にも言わないから。シロキさんの本当の気持ちなんて――」
ああ、どうしよう。やっぱりカドに隠し事なんてできない。僕は顔を両手で覆ったままカドを問い詰める。とても顔なんて上げられない、見られたくない。
「いつから知っていたの?」
「ずっと前からだよ。融合して全身が鏡になったから知ったわけじゃない。シロキさんの魂を覗いたりもしていない。信じて。シロキさん、ごめんね、隠しておきたかったんだよね。俺とシロキさんの秘密にしよう。俺を信じて」
僕は何も言わずに鏡の地獄への扉を開き飛び出した。
ずっと前からってどういうことだ? 意味がわからない。
カドはわかってない。僕はカドに知られたからこんなに動揺しているのに、それなのに二人の秘密にしようだなんて。
あの子のきれいな神様でいたかったのに。そうじゃなきゃ僕には存在する意味がない。
カドの記憶を消さなくちゃ。カドが融合した時の苦しい記憶を思い出さないように、なんて尤もらしい言い訳をすれば良い。
今度は絶対悟られないように深く心にしまうんだ、注意深く、どうとでも取れるような曖昧な態度で振舞うんだ、飛び込んだ鏡の地獄の雪に身体を預け、そんなことを考えていた。
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