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第二章 鏡の地獄
閉じた地獄9
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僕はゆっくりと腕を開き、罪人の魂を地獄へ送り出し始めた。今回はかなりの数の魂なので、次々と地獄の扉を開き、罪の色を間違えないように振り分けていく。気の遠くなる回数、繰り返してきたことなので、難しいことではない。
罪深い魂の美しい群れが去り、残るのは仄かに紫色に光る鏡の地獄行の魂の群れだけになった。――凄い数だな。
僕は悲しくなってナイトを振り返った。お前はどうやってこの魂の群れと向き合ってきたの。そしてこれからも独りで背負って、守ろうとしていたの。
そんな僕の想いなど全く届いていない様子でナイトが僕を見ている。僕が見たことのない表情だ。何を考えているんだろう。
「……どうかした?」
「すごくきれいだった。お前も魂も。魂は罪まみれで、お前は欲深いのに凄く清らかだった。ありがとう」
そこまで欲があふれ出てしまっているのか。
「僕は……ただ、カドとお前が大切なだけだよ。溺れる欲は厳選してるつもりなんだけどな」
「そんな顔するなよ、わかってる。神様は欲と罪にまみれると一層きれいだ。お前はずっと汚れないでいてくれよ」
カドが融合を終えてから、時間をかけて地獄を周っている最中に、悪魔たちが僕を「きれいだ」と褒めてくれることにはだいぶ慣れた。でもそれは優しい悪魔が、鏡の世界に起きたことを察して、励ますために大げさに言ってくれているものだと思っている。
カドが融合を終えるまで、叫び声は地獄中に響きわたり、その都度大きく地面を揺らした。そのせいでみんな僕たちのことを心配してくれていたから。
それでも、ナイトに言われるのは別だ。僕と同じ顔のくせに、僕より背が高いくせに、表情も仕草も洗練されているくせに、「きれいだ」なんて言われると心底うろたえてしまう。今も何て返事をしていいのかわからなくて、変な息を漏らしている僕を心配そうに見ている。
「お前、大丈夫か? 疲れたのか? 久しぶりだし、頑張ったもんな」
全然疲れてないけど、勝手に解釈してくれて良かった。
カドがくすっと笑う声が聞こえた。僕がどぎまぎするのを楽しむんだ、あの子は。
「お前、少し休んでろよ。こいつらのことは俺に任せろ」
そう僕に声をかけると、空間に寂し気に残る紫の光の群れへと手を伸ばした。その手にすがるように魂たちが吸い寄せられていく。
ナイトの優しい横顔が淡く紫色に揺らめいて、現実のものじゃないみたいだ。目を伏せ、両腕を開くナイトの胸の中に代わるがわる狂おしく纏わりつく魂を見て、これは浄化だと確信する。
「お前は、誰より悪魔の役目を果たしているね」
魂に向けていた表情のまま僕の方を向くナイトの目に少しだけ隠しきれない悲しみの色が見えて、僕は改めて思う。こいつを苦しめる極楽なんて無くなればいい――。
罪深い魂の美しい群れが去り、残るのは仄かに紫色に光る鏡の地獄行の魂の群れだけになった。――凄い数だな。
僕は悲しくなってナイトを振り返った。お前はどうやってこの魂の群れと向き合ってきたの。そしてこれからも独りで背負って、守ろうとしていたの。
そんな僕の想いなど全く届いていない様子でナイトが僕を見ている。僕が見たことのない表情だ。何を考えているんだろう。
「……どうかした?」
「すごくきれいだった。お前も魂も。魂は罪まみれで、お前は欲深いのに凄く清らかだった。ありがとう」
そこまで欲があふれ出てしまっているのか。
「僕は……ただ、カドとお前が大切なだけだよ。溺れる欲は厳選してるつもりなんだけどな」
「そんな顔するなよ、わかってる。神様は欲と罪にまみれると一層きれいだ。お前はずっと汚れないでいてくれよ」
カドが融合を終えてから、時間をかけて地獄を周っている最中に、悪魔たちが僕を「きれいだ」と褒めてくれることにはだいぶ慣れた。でもそれは優しい悪魔が、鏡の世界に起きたことを察して、励ますために大げさに言ってくれているものだと思っている。
カドが融合を終えるまで、叫び声は地獄中に響きわたり、その都度大きく地面を揺らした。そのせいでみんな僕たちのことを心配してくれていたから。
それでも、ナイトに言われるのは別だ。僕と同じ顔のくせに、僕より背が高いくせに、表情も仕草も洗練されているくせに、「きれいだ」なんて言われると心底うろたえてしまう。今も何て返事をしていいのかわからなくて、変な息を漏らしている僕を心配そうに見ている。
「お前、大丈夫か? 疲れたのか? 久しぶりだし、頑張ったもんな」
全然疲れてないけど、勝手に解釈してくれて良かった。
カドがくすっと笑う声が聞こえた。僕がどぎまぎするのを楽しむんだ、あの子は。
「お前、少し休んでろよ。こいつらのことは俺に任せろ」
そう僕に声をかけると、空間に寂し気に残る紫の光の群れへと手を伸ばした。その手にすがるように魂たちが吸い寄せられていく。
ナイトの優しい横顔が淡く紫色に揺らめいて、現実のものじゃないみたいだ。目を伏せ、両腕を開くナイトの胸の中に代わるがわる狂おしく纏わりつく魂を見て、これは浄化だと確信する。
「お前は、誰より悪魔の役目を果たしているね」
魂に向けていた表情のまま僕の方を向くナイトの目に少しだけ隠しきれない悲しみの色が見えて、僕は改めて思う。こいつを苦しめる極楽なんて無くなればいい――。
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