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第二章 鏡の地獄
閉じた地獄5
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海の中で燃える大量の魂を見た時、自分がどれだけ人間の世界を放置しておいたのかを思い知った。
海の神様もこの魂たちも、僕のことを許してくれるだろか。
僕は意を決して鏡の外に出ようとした。あれ? 開かない。
「シロキさん、外に出るなよ。わかってるの? ここ海の中だよ、泳げないでしょ?」
カドが僕に扉を開けさせないのか。そんな力もあるんだ。
「すごいね、僕を閉じ込めておくこともできるんだ。そうだね、泳ぐのは苦手だけど、海の神様に謝りたいんだ」
「シロキさん……海の神様は会ってくれないと思うよ」
「そうだよね、僕のためにこんな大勢の魂を大切に預かってくれていたんだから、大変な迷惑をかけたよね。怒っていても仕方ない。でもそんなに脅さないでよ。そりゃ僕だって怖いけど、謝って、それからお礼を言わないといけない」
「うんう、俺、さっき水の底へ落ちて行く時、海の神様を見た。全然怒っている感じじゃなかった」
見る力も凄いな。僕は全然気がつかなかった。
これまで何度も海のそばに門を下ろしてきたのに海の神様を見たことがない。
とても気難しい神様なのかも知れないと想像していた。
「ねえ……どんな神様だった?」
僕は怖々たずねた。
「ええと……シスみたいだった」
「そう、そんなに美しいな神様なんだ。それで……怒ってはいないけど、僕と会いたくなさそうだったってこと?」
「うん。だって、すごく緊張した顔をしていたもの。きっとシロキさんが好きなんだよ」
「カド、からかわないで。お願い、扉を開けて」
そういった時だった。扉の向こうに透明な神様が現れた。鏡の外側で僕を真っ直ぐ見つめている。
「え? どうして……」
カドの驚いた声がした。僕も自分の記憶の中で一番不思議なものを見た気がする。
水で形作られて揺らいでいても、その完璧な美しさが少しも崩れようのない神様。自ら発光しながら、動き続けて定まらず、手足が見えない。顔さえも不確かで、片目しか見えない。身体が透けていて、あるべきものがない。不完全なのに完全な神様。
悪魔たちが良く言っている神様の全てを体現している。これがそうだ。自分の未熟さを思い知る。僕は その場に力なく跪き、ただ必死にその神様の姿にすがった。
懐かしいその口が微かに動いた。何を言っているの? 鏡越しに顔を寄せ、その整った唇の動きを追った。
――出会ってくれて、ありがとう。
確かにそう言った。僕は見つけてもらうことを待っている美しいものが大好きだ。海の神様には本当に感謝しなきゃ。
当たり前だよ、僕には見えてる、聞こえている。僕に近づいて、願って、そのままを映して、そう鏡越しに呼びかけた。
僕は透明なあなたの体温だって映すことができる。なのに神様は海を反射する美しい目を滲ませて、そのままゆっくりと水に溶けていった。
「あれは……」
「うん、わかってるよ」
海の神様もこの魂たちも、僕のことを許してくれるだろか。
僕は意を決して鏡の外に出ようとした。あれ? 開かない。
「シロキさん、外に出るなよ。わかってるの? ここ海の中だよ、泳げないでしょ?」
カドが僕に扉を開けさせないのか。そんな力もあるんだ。
「すごいね、僕を閉じ込めておくこともできるんだ。そうだね、泳ぐのは苦手だけど、海の神様に謝りたいんだ」
「シロキさん……海の神様は会ってくれないと思うよ」
「そうだよね、僕のためにこんな大勢の魂を大切に預かってくれていたんだから、大変な迷惑をかけたよね。怒っていても仕方ない。でもそんなに脅さないでよ。そりゃ僕だって怖いけど、謝って、それからお礼を言わないといけない」
「うんう、俺、さっき水の底へ落ちて行く時、海の神様を見た。全然怒っている感じじゃなかった」
見る力も凄いな。僕は全然気がつかなかった。
これまで何度も海のそばに門を下ろしてきたのに海の神様を見たことがない。
とても気難しい神様なのかも知れないと想像していた。
「ねえ……どんな神様だった?」
僕は怖々たずねた。
「ええと……シスみたいだった」
「そう、そんなに美しいな神様なんだ。それで……怒ってはいないけど、僕と会いたくなさそうだったってこと?」
「うん。だって、すごく緊張した顔をしていたもの。きっとシロキさんが好きなんだよ」
「カド、からかわないで。お願い、扉を開けて」
そういった時だった。扉の向こうに透明な神様が現れた。鏡の外側で僕を真っ直ぐ見つめている。
「え? どうして……」
カドの驚いた声がした。僕も自分の記憶の中で一番不思議なものを見た気がする。
水で形作られて揺らいでいても、その完璧な美しさが少しも崩れようのない神様。自ら発光しながら、動き続けて定まらず、手足が見えない。顔さえも不確かで、片目しか見えない。身体が透けていて、あるべきものがない。不完全なのに完全な神様。
悪魔たちが良く言っている神様の全てを体現している。これがそうだ。自分の未熟さを思い知る。僕は その場に力なく跪き、ただ必死にその神様の姿にすがった。
懐かしいその口が微かに動いた。何を言っているの? 鏡越しに顔を寄せ、その整った唇の動きを追った。
――出会ってくれて、ありがとう。
確かにそう言った。僕は見つけてもらうことを待っている美しいものが大好きだ。海の神様には本当に感謝しなきゃ。
当たり前だよ、僕には見えてる、聞こえている。僕に近づいて、願って、そのままを映して、そう鏡越しに呼びかけた。
僕は透明なあなたの体温だって映すことができる。なのに神様は海を反射する美しい目を滲ませて、そのままゆっくりと水に溶けていった。
「あれは……」
「うん、わかってるよ」
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