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第二章 鏡の地獄
閉じた地獄4
しおりを挟む そういえば、ナイトは急に僕らが移動して心配していないだろうか。
カドがまた僕の心が読めるような事を言う。
「ナイトになら俺から言っておいたよ。俺が門を移動できるって聞いて驚いて、すごく褒めるから恥ずかしくなっちゃたよ」
褒められた時の嬉しさを思い出したのか、鏡の空間が揺れて僕もよろける。あいつどんな褒め方をしたのだろう。
ナイトは僕がいなくても鏡の空間を訪れて、カドと二人で過ごすことがある。僕みたく、ひたすら鏡にべったりするのではなく、静かに見つめあったり、語りあったりしているのかと思うと、何だか落ち着かない気持ちになる。嫉妬、ではないのだけれど。ただ二人の間に僕がいない、それだけで、自分でも良くわからない感情を持て余す。
今回の役割が終わるまでに、本当に鏡の地獄への態度を決めなければならない。
冬の空を介してつながっている鏡の地獄と極楽、あれを僕の力で塞ぐことが出来るだろうか。試してみないとわからない。
作成者は僕から拒絶されていることに勘付いているだろう。怒っているだろうか? 泣いているだろうか? 嘆いているだろうか? あいつの顔を思い浮かべて溜息をついた時だった。
「シロキさん、ごめん!」
カドの叫び声と同時に僕らは海に落ちた。
びっくりしたけれど、そんなことより僕は初めて見る海中の世界に目を奪われていた。
鏡の内側から見る夜の海は深く静かなのに、驚くほど多彩な感情を秘めていて、空よりずっと前から知っているような懐かしい気持ちになった。
柔らかく落ちて行く僕達を、冷ややかな体温で包み込み、そして優しく突き放す、矛盾した態度が魅力的だ。
「ねえ、カド。僕はやっぱりずぶ濡れが好きだ。しとしと濡れるのは例え鏡越しでも心が凍って嫌いだ」
カドが答えるまで妙な間があく。僕の水が苦手なのに海と豪雨は好きで、弱い雨が嫌いで泳ぐのが怖いとかいう分類を整理しているに違いない。
「……ええと、ごめん、どこもぶつけなかった? シロキさんが例え水にでも『嫌い』なんて言葉を使うのは珍しいね」
「……僕はお前が思うよりずっと好き嫌いが激しいよ。例えばお前を傷つけるものは何だって大嫌いだ。そしてお前とナイトのことは大好きだよ。子供っぽいかな?」
「シロキさんっぽいよ」カドが笑う。
激しい雨と海の記憶、それはきっと僕に残されたあの人の記憶なんだ――。
カドがまた僕の心が読めるような事を言う。
「ナイトになら俺から言っておいたよ。俺が門を移動できるって聞いて驚いて、すごく褒めるから恥ずかしくなっちゃたよ」
褒められた時の嬉しさを思い出したのか、鏡の空間が揺れて僕もよろける。あいつどんな褒め方をしたのだろう。
ナイトは僕がいなくても鏡の空間を訪れて、カドと二人で過ごすことがある。僕みたく、ひたすら鏡にべったりするのではなく、静かに見つめあったり、語りあったりしているのかと思うと、何だか落ち着かない気持ちになる。嫉妬、ではないのだけれど。ただ二人の間に僕がいない、それだけで、自分でも良くわからない感情を持て余す。
今回の役割が終わるまでに、本当に鏡の地獄への態度を決めなければならない。
冬の空を介してつながっている鏡の地獄と極楽、あれを僕の力で塞ぐことが出来るだろうか。試してみないとわからない。
作成者は僕から拒絶されていることに勘付いているだろう。怒っているだろうか? 泣いているだろうか? 嘆いているだろうか? あいつの顔を思い浮かべて溜息をついた時だった。
「シロキさん、ごめん!」
カドの叫び声と同時に僕らは海に落ちた。
びっくりしたけれど、そんなことより僕は初めて見る海中の世界に目を奪われていた。
鏡の内側から見る夜の海は深く静かなのに、驚くほど多彩な感情を秘めていて、空よりずっと前から知っているような懐かしい気持ちになった。
柔らかく落ちて行く僕達を、冷ややかな体温で包み込み、そして優しく突き放す、矛盾した態度が魅力的だ。
「ねえ、カド。僕はやっぱりずぶ濡れが好きだ。しとしと濡れるのは例え鏡越しでも心が凍って嫌いだ」
カドが答えるまで妙な間があく。僕の水が苦手なのに海と豪雨は好きで、弱い雨が嫌いで泳ぐのが怖いとかいう分類を整理しているに違いない。
「……ええと、ごめん、どこもぶつけなかった? シロキさんが例え水にでも『嫌い』なんて言葉を使うのは珍しいね」
「……僕はお前が思うよりずっと好き嫌いが激しいよ。例えばお前を傷つけるものは何だって大嫌いだ。そしてお前とナイトのことは大好きだよ。子供っぽいかな?」
「シロキさんっぽいよ」カドが笑う。
激しい雨と海の記憶、それはきっと僕に残されたあの人の記憶なんだ――。
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