奇跡の神様

白木

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第二章 鏡の地獄

三つ目の血3

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 そんな時、アドバンドが「お前、行って来いよ。その間、俺がカドとシロキさんを見ていてやるから」と言ってくれた。

 それは俺がいない間にカドが苦しみ出したら、自分の血を分け与えることを意味していたが、何でもないようにそう言った。

 幸い今まで俺がいない間に、再度アドバンドに血を流させるようなことはなかった。

 鏡の地獄から不安を抱えて戻る度「本当はもう少し、シロキさんとカドと過ごしたかったんだけどな。仕方ない、交代してやる」と優しく俺の肩を叩いて出て行く。

 こいつがまとめている炎の地獄も炎の悪魔も幸せだろうな、俺は憧れると同時に心配にもなった。

「いつもありがとう。その……お前がこうしょっちゅう炎の地獄を抜けていたら、他のやつが大変なんじゃないか。鏡の地獄と違って毎日……浄化をしたり忙しいんだろ」

 俺は魂を消すことしかやったことがないからわからないけれど、と言いかけて呑みこんだ。

「俺一人いなくても何も変わらない。むしろあいつら俺がいない間、普段より伸び伸びしてるんじゃないか」

 何も気がつかないふりをして、明るくアドバンドは続けた。

「実はもう一人、お前たちに協力したいっていう悪魔がいてな。シスなんだけど、あいつもたまにここに来させてもいいか? お前はその間、鏡の地獄に行くこともできるし」

 シスって……やたらに整った顔をした水の悪魔のことか。

「どうしてシスが?」俺は尋ねた。

「初めて魂の引き渡しに来た時、シロキさんに一目惚れしたらしい」

「冗談言うなよ、あいつも俺たちの事をかわいそうに思っているんだろ」


 冗談ではなかったようで、鏡の空間にやって来るようになったシスは、宝石のような瞳を輝かせて、以前より青白いシロキの顔を食い入るように見つめていた。恍惚と何分も見つめていることもあって、少し怖かった。

 今日も俺たちを交互に見ているようで、明らかにシロキへ向ける視線の割合が多い。少し前から心の中で、変態呼ばわりしている事を悟られないよう、俺は出来る限り無関心を装っていた。

「カドは最近落ち着いているみたいだな。地獄の地震も減ってるからわかる。シロキさんは、またカドと人間の世界に行くんだろ? 何日か前、雷の神様が来て罪人の魂が人間の世界に溢れてきていると言っていたよ。シロキさんのことを心配していた。魂は海の神様に預けておくから大丈夫だ、と伝言を残して帰ったよ」

 シロキが引きこもっているから気を遣って直接会いに来なかったのか。

 怯えた表情でシスを見上げてシロキが言った。

「雷の神様が……どうしよう、僕、直ぐに人間の世界に行かないといけない。地上の神様たちは僕のこと怒っているよね」

 シスはシロキの怯えた顔にうっとりしていて、返答するのにやたら時間がかかった。やっぱりこいつ、どうかしている。

「――シロキさんのことを怒ってるわけないだろ。そもそも作成者がしっかりしていればガジエアもトリプガイドも盗まれたりしなかったんだから。そして、シロキさんたちがこんな辛い思いをすることもなかった。なのにこの状況をただ見ているだけで、未だに何もしようとしない極楽に、地上の神様たちは怒っている。だから、シロキさんは人間の世界のことは何も心配しないで、カドが完全に融合が終わったと確信するまで見守ってやるんだ。それで、当のカドは寝てるのか? 仕方ないよな。融合には相当熱量を使うんだろう」

 そう言ってカド起こさないようそっと鏡に手を当てる。

 とてもいい奴なんだ。

 シロキに病的なほど憧憬を抱いてる以外は。こいつならシロキの謎の寝ぐせにすら興奮しそうだ。

 二人きりにしてやれなくて悪いな、でも今日は…

「シロキ、これから俺と鏡の地獄に来てくれないか。ずっとお前に隠していたことを、伝えたいんだ」

「え? 隠し事があるのは知っていたけど……話してくれるの?もちろん僕も聞きたい、でもここでは言えない話なの? 僕が居なくてもカドは大丈夫だろうか」

 シロキがオドオドして俺と鏡を交互に見る。

 意外なことにシスが柔らかい声で口を挟んできた。

「シロキさん、行ってこい。カドは俺が見ているから安心しろ」

 そして羨ましそうな顔で俺を見て、ガジエアを指した。

「さあ、それを渡せ」

 今度はシロキを好きなだけ貸してやるから、と心でシスに誓いながらガジエアを差し出した。

 そうだ、また元気になって「水が怖い」とかどうとか絡んできたりしたら、丁度良い、面倒臭いからしばらく水の地獄に引き取ってもらおう。水にも慣れるだろうし。

「悪いな、頼むよ。なるべく早く戻る」

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