奇跡の神様

白木

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第二章 鏡の地獄

祈りの鳥5

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 やがて魂が全て中央部へ集まると、俺はいびつな形の湖を隙間なく鏡の壁で囲んだ。そしてそれを、静かに空まで引き上げる。同時に、湖面も氷が張るように鏡へと変わった。これで魂の逃げ場所は遥か上空の天井部分だけになる。

 俺は鏡の壁の外に立つが、自分で作った物の内側は見ることができる。

 紫の魂の灯りが周囲の壁に反射して蠢いている。それを美しいと思っていられるのは、たったまばたき数回分の時間だ。

 直ぐに、鏡の檻の中は心臓を切り裂くような苦しみの喚き声で満たされる。

 鏡の地獄が震えて冬が歪み出す。ああ、この魂たちは今、目の前の鏡の中に見ている、自分が自分を殺した、自殺したその時の情景を、そこに至るまでの過程を。そして何より残酷なことに、その時の自分自身の本当の心を否応なしに見せつけられている。

 苦しかったか? 痛かったか? 頭が痛くなるくらい泣いたか? 自分が嫌いになるだけ怒ったか? 恨んだか? 一人になりたかったか? わかって欲しかったか? 最初からやり直したかったか? 逃げたかったか? どうでも良くなったか? 無になったか?

 ――消えてしまいたかったか?

 そうして、ここに来てやっと安らげると思っただろうに。

 見たくない、そう目を背けて逃げまどっても、逃げた先の鏡にまた映る、自分を殺す自分の姿。

 怯えて、嫌悪し、ぶつかり合って、痛み、ちぎれて行く紫の魂たち。叫ぶのは憑りついた過去がまだ首を絞めるからか? 心臓を掴みに来るからか? それとも今、剥き出しになった魂同士が作る、新しい傷が脈打って痛むからか? 

 もがき続ける自殺した者たちは、最期の逃げ場を求めて上へ上へと向かう。俺の地獄にだけある極楽へ続く空へ。

 ただし、これはシロキの鏡の門の扉とは違い、俺の意志では動かせない。極楽の作成者の意志だけで開く。

 この魂たちはみんな極楽へ向かう。神様や悪魔になるわけではないけれど。

 こいつらは、培養水――トリプガイドが枯渇しないための養分になる。

 神様の一部になったり悪魔の一部になって永遠に生き続ける、ならまだ希望があるのに。

 やっと苦痛しか生まない身体から解放されてここに来たのに、呪いはどこまでも追ってきて「魂であったもの」と呼ぶのがふさわしい形にまでバラバラにされ、繊維になって培養液に喰われる。極楽に行った先に待っているのはそれだけだ。

 俺がやっていることはただ湖の処刑場から極楽の祭壇へ、最短距離で誘導しているだけだ。

 他の地獄のような未来はここにはない。もがけるだけもがいてきた者たちを、欠片まで残らず消し去る。そのためだけに作られたのが鏡の地獄だ。

 俺がシロキのように自分の意志で扉を操れたのなら、もうあの空を開かない。

 ならこの湖に魂を誘導するのも止めたらいい、そう思うのだが、抗うことが出来ない。作成者の記憶がそうさせないのだ。

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