奇跡の神様

白木

文字の大きさ
上 下
83 / 331
第二章 鏡の地獄

悪魔の血2

しおりを挟む
 冬の晴れた朝の湖のほとりに座り、白い息を吐くシロキに見惚れていた。そして視線に気がつかれる前に、湖に向き直る。

 極楽の作成者はやっぱり考えている。悪魔も神様も元々どっちも完成された存在だ。悪魔は完成したまま放置するくせに、神様は完成されたものを、わざわざ本体と使いと門の三つに絶妙な配分で分解し、それぞれを不完全な状態にする。

 分かたれた三つが欠けた部分を求めて手を伸ばしあっている様子が狂おしい。どれだけの思考と手間をかけているのか。作成の過程から愛され方が違う。

 悪魔を完璧だと称賛する神様は間違えている。手抜きされているのは俺たちの方だ。

 シロキに心の中で声をかける。お前、怯えるなよ。

 特にお前を作成する時には、極楽はどれだけの労力を費やしたことだろう。髪質とか着崩れとかは些細な問題だ。いや、なんならそれらも計算のうちかも知れない。

 近いうちにこいつには自分がどれだけの奇跡なのかを伝えてやらなきゃならない。

 こいつとあとどれくらい一緒にいられるかわからないから、俺がいなくなった後も迷ったりしないように。


「鳥がいるよ」

 カドの声に俺もシロキもはっとして、そちらを見た。

 カドの視線の先に居る白い水鳥の群れ。鏡の地獄にはここと同じような湖が、俺にも正確な数がわからないないくらいある。そしてそこにも同じ白い鳥の群れがいる。俺の祈りの鳥だ。こいつらのせいで俺はここから離れることができないと言ってもいい。

「どうして地獄に植物以外の生物がいるの?」

 そうだよな。シロキは俺がここで他の悪魔と同じように浄化に精を出していると信じて疑っていない。

「あれは生きていないから」

 新雪と同じ純白の鳥を見たまま俺は答えた。

 頬に何か暖かいものが触れた。いつの間に目の前に立ったカドの指が俺の頬に触れている。初めて自分が泣いていることに気がついた。

 この時はっきりとわかった。カドは知っている。たとえ知っていても俺を責めることも、まして他のものに怒りを向けるわけでもない。でも今、俺の涙を拭った時に向けた目は、このままで良いとは思っていない。

 ――お前、一緒に壊れてくれるか?

 カドが俺から目を離す前に思わず力を使い、鏡を通してすがってしまった。カドは口元に笑みを浮かべたが、返事はせず祈りの鳥の浮かぶ湖の方へ走って行った。

 どういう意味だ? なあ、カド。

「あんまり遠くに行っちゃだめだよ」

 カドを追って立ち上がるシロキの寝ぐせをさりげなく撫でて直してやる。

 シロキが、え? という顔で俺を見た。俺はもう少しで、この不安を抱えた優しい神様を狂わせてしまうかもしれない。カドを追って走って行く消えそうな背中を見て苦しくなる。

 突然、シロキが新雪の上に膝をついた。俺が何かしてしまったのかと思った。それか運動神経の悪いあいつのことだ、つまずいただけか? 

 直ぐに立ち上がらないシロキを見て胸騒ぎがした。大丈夫か? 駆け寄りながら、こいつが置き去りにしてきた門の事を考える。

 少し離れた湖のほとりにいるカドに目をやると、身体にこそ異常はなさそうだが、俺たちの様子を見るその顔が緊張でいっぱいになっているのがわかった。カドはシロキの鼓動に共鳴する。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...