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第二章 鏡の地獄
融合2
しおりを挟む岩でわざわざ作り出した椅子の上から、怒りをにじませながら高みの見学をしていたレイニート様の目がさらに不穏な目に変わった。
「……僕の時間を費やさせておいて、おふざけとは良い度胸じゃないか」
レイニート様は僅かに目の笑ってない微笑みを浮かべて持っていた鞭をビシッと伸ばす。
「ふざけてません……」
いや、ふざけている。ふざけているが真面目だ。
わざわざ街の外まで行く必要無しの烙印を押された俺は、今日は西区でレイニート様と特訓。
レイニート様の造ったゴーレムが捕まえて来てくれたスライムに立ち向かう為、俺はレイニート様に断りを入れて『戦闘服』に着替えさせてもらった。
昨日出来上がったゴテゴテ装飾の剣を元に合成して出来上がった俺の『戦闘服』は……ルノさんに見せてと言われても見せる事が出来なかった。その後出す予定は無かったのだが……。
しかし……スライムを目の前にした俺に……レイニート様はにっこりと微笑まれこう曰った。
「君がスライム一突きして弾かれる度に、僕は君に一振りするから……」
両手でビンッと伸ばされた黒色の鞭に俺の体は硬直した。
「大丈夫……ヒール薬はたくさん持って来た。ルノルトスの元に返す時には傷一つ残さず帰してあげるから、気にせず何度でも挑んでくれたまえ」
冷たい瞳で顎を撫でられ、迷っている暇はないと『戦闘服』を慌てて取り出した次第だ。
『合成シーナ専用戦闘服……全てのステータスが+10される。的確に標的の弱点を狙って行く手助け機能付き。汚れに強く返り血も恐れず特攻できる』
機能的には申し分ないのだが見た目に問題が……だが鞭打ちされるよりはマシだと戦闘服に足を通した。
『虹石の宝飾剣』×『モスファルのシャツ』×『モスファルのズボン』×『ぬいぐるみ(猫)』を合成して出来上がった『戦闘服』は猫の着ぐるみだった。
女の子が可愛く着こなす猫耳フードの可愛い着ぐるみじゃない。本格的な着ぐるみ、立ち姿はどこぞかのゆるキャラだ。手には剣を握っているのでゆるくはないけど。
着ぐるみの視界は悪いかと思ったが視界は良好で顔の周りは透けて周囲の様子がよく見える。
「ふざけてないと言うのであれば、早くそのスライムを倒してみたまえ」
レイニート様の言葉に視線をスライムに向けた。
このスーツの性能がどれほどかわからないけど、この着ぐるみなら鞭打ちされても痛くないかも……えっ!?
剣を握った右腕が勝手に持ち上がる、何これ、気持ち悪い!!
地を蹴って大きく飛び跳ねた俺の体はスライムへ向けて一直線にその剣を突き刺した。
ブシャアアァァァッ!!
「うわぁぁぁっ!!」
思わず目を瞑ってしまったが吹き出したスライムの粘液が俺の顔を汚すことはなかった。
そうか、被り物してるんだった。
「ほう、ふざけているのかと思ったらやるじゃないか……なら次はこいつはどうだ?ツノラビックだ」
ツノラビック、本当ならナタリア先生の戦闘教室で出てくるはずだった教材。
ゴーレムに連れられて来たのは、厳つい角は生えてる兎さんだ。
「こんなに可愛い魔物もいるんですね。スライムとは大違いだ」
「見た目に誤魔化され無い方がいいかもね。ツノラビックとはいえ油断してるとその脚力と角はなかなか危険だぞ」
「へぇ~……うわっ!!」
ツノラビックが跳ね上がったかと思うと真っ直ぐにこちらに角を向けて落下してくる。
俺の体はそれを華麗に除けたかと思うと、角から落下し地面に突き刺さる無防備なツノラビックの体を……。
裂ける体、降りかかる血飛沫。
スライムの元とは違う生々しい血肉……。
「うわあぁぁぁぁっ!!血っ!!血が!!」
だから俺はスライムだけを倒してLv.5にしたかったのに!!スライム以外は手を抜いてスライムしか倒せない姿勢を目指すつもりだったのにっ!!
「自分でやっておいて何を騒いでいるんだい、君は」
俺じゃ無い、俺じゃ無いんです!!
動いているのは俺の手だけど動かしてるのは俺じゃ無いんだっ!!
ま……まさか、テイムしようと思って作ったぬいぐるみにテイムされる事になるとは……。
「ツノラビックを瞬殺か、なら次はゴートラカペルを試してみるか?」
ゴーレムに二本の角を掴まれ連れてこられたのは……山羊だか牛だか猪だか、なんだかわからないが見るからに凶暴!!
既に後ろ足が足踏みしていて……ゴーレムが手を離した瞬間、俺に向かって突進をして来た。
ザンッ……。
く……首ぃ~っ!!
全身着ぐるみなので俺の体に全く血は触れてないし匂いもしないのだが、良すぎる視界で繰り広げられるスプラッターと激しすぎるゴア。
「凄いじゃないかシーナ君、この調子でもう少し行ってみようか」
レイニート様のゴーレム達が次々に魔物を連れてくる。
「いや、や……もうやめて……やあぁぁぁぁっ!!」
ーーーーーー
「……はっ!!」
気がつくと俺は血の海の中に立ち尽くしていた。
どうやらあまりの恐怖に立ったまま気を失っていたらしい。
「お疲れ様シーナ君、もう打ち止めだ。Lv.3を飛び越してLv.4だね、おめでとう。これでルノルトスより僕が教師としては優秀という事が立証されたね」
「Lv.4……」
どうやら俺が気を失っていた間も俺は魔物を殺し続けていた様だ。
どうやって敵と敵じゃ無い者とを区別しているんだろう……俺が敵として認識しているものが攻撃対象ならどうしてレイニート様は生きているんだろう……。
気を失っていただけだけど疲れた……疲れたよ。
無言で血の海から上がると着ぐるみの頭部を外した。
風に乗って漂う血の匂い……残念だが現実の様だ。
「随分と疲れているね。どうだい?今日は僕の屋敷で夕食を用意してあげよう。ゆっくりお風呂に浸かり僕と一緒に寝ようじゃ無いか」
脱いだ着ぐるみを収納鞄に仕舞い込み、レイニート様に頭を下げた。
「きょうはありがとうございました。せっかくのおさそいですが、はやくかえりたいのでしつれいします」
「そうかい?僕はこの魔物の残骸を片付けがあるからゴーレムに送ら……いや、迎えが来た様だな」
レイニート様の言葉に顔を上げて、その視線の先を追うと畑の中の一本道をこちらに歩いてくる、見慣れた制服。
俺が振り返ったのに気づいたのか手を振ってくれて、振り返そうと思った瞬間にはもう抱きしめられていた。
「シーナ、凄いじゃないか!!これ全てシーナがやったのか?レベルも4まで上がって、頑張ったんだね……でも顔色が良くないな?」
ルノさんの笑顔に安心した途端、涙が溢れ出て目の前の体に抱きついた。
「い……いっぱい血が出て……怖くて……嫌なのに、それでも無理やり動かせられて……」
足元に残る惨劇の跡、思い出すとまた恐怖が蘇りルノさんの胸に顔を押しつけた。
「レイニート様……これはどういう事かご説明願えますか……」
「誤解するなルノルトス。シーナ君、動揺しているわりに的確に重要部の省略ありがとう」
「誤解?ならその鞭はなんですか?」
「愛の鞭さ。結果的に使っていないのだからいいだろう?シーナ君、何があったか教えるためにもう一度戦ってみせるかい?」
もう一度戦えと言われてももう戦意は完全に喪失している。
「嫌ですよ。もう打ち止めだってレイニート様が言ったじゃないですか……ルノさん帰りましょう。魔物の血はルノさんに良くないですよね?」
涙を拭きながらルノさんの手を引っ張るけどルノさんの体は動かない。
振り返るとルノさんは真っ直ぐにレイニート様を睨んでいる。
「ルノルトスが感情剥き出しの瞳を僕に向けてくるのは快感だが、これ以上はさすがに命が危なそうだ。シーナ君、涙が落ち着いたのなら君から説明をしたまえ」
珍しくレイニート様の顔が引きつり気味だ。あの『戦闘服』のこと説明しなきゃ駄目なのかぁ。
「レイニート様……何をされたのか、シーナの口から言わせる気ですか……?」
かなりスパルタだった。
これ以上は心が折れると訴えても次から次に魔物出してきて、何気にどんどん大型の魔物になっていってた。
「レイニート様が俺の為を思ってしてくれたのはわかってるんですが……俺が……」
俺の戦闘スタイルを話すのはとても気が引ける。
ルノさんはレベル上げの為とはいえ俺が魔物を殺す事、あんまりよく思ってない様で、俺の手を汚すぐらいなら自分がって言って先に倒してしまうぐらいだから……。
着ぐるみに操られていたとはいえ、客観的に見たら嬉々として魔物殺しを楽しむ様に飛び掛かり、魔物の血にまみれそれでも笑顔で立つ着ぐるみのあの姿を、見られたら引かれる……最悪嫌われるかも……ルノさんに軽蔑の目を向けられるのは辛いなぁ。
「俺が……汚れてるとしても嫌わないでいてくれますか?」
俺が惨殺したらしい魔物の血の海が一瞬で干上がり、代わりに火の海と化した。
さすがルノさん……魔物の後処理も早いデスネ……。
「……僕の時間を費やさせておいて、おふざけとは良い度胸じゃないか」
レイニート様は僅かに目の笑ってない微笑みを浮かべて持っていた鞭をビシッと伸ばす。
「ふざけてません……」
いや、ふざけている。ふざけているが真面目だ。
わざわざ街の外まで行く必要無しの烙印を押された俺は、今日は西区でレイニート様と特訓。
レイニート様の造ったゴーレムが捕まえて来てくれたスライムに立ち向かう為、俺はレイニート様に断りを入れて『戦闘服』に着替えさせてもらった。
昨日出来上がったゴテゴテ装飾の剣を元に合成して出来上がった俺の『戦闘服』は……ルノさんに見せてと言われても見せる事が出来なかった。その後出す予定は無かったのだが……。
しかし……スライムを目の前にした俺に……レイニート様はにっこりと微笑まれこう曰った。
「君がスライム一突きして弾かれる度に、僕は君に一振りするから……」
両手でビンッと伸ばされた黒色の鞭に俺の体は硬直した。
「大丈夫……ヒール薬はたくさん持って来た。ルノルトスの元に返す時には傷一つ残さず帰してあげるから、気にせず何度でも挑んでくれたまえ」
冷たい瞳で顎を撫でられ、迷っている暇はないと『戦闘服』を慌てて取り出した次第だ。
『合成シーナ専用戦闘服……全てのステータスが+10される。的確に標的の弱点を狙って行く手助け機能付き。汚れに強く返り血も恐れず特攻できる』
機能的には申し分ないのだが見た目に問題が……だが鞭打ちされるよりはマシだと戦闘服に足を通した。
『虹石の宝飾剣』×『モスファルのシャツ』×『モスファルのズボン』×『ぬいぐるみ(猫)』を合成して出来上がった『戦闘服』は猫の着ぐるみだった。
女の子が可愛く着こなす猫耳フードの可愛い着ぐるみじゃない。本格的な着ぐるみ、立ち姿はどこぞかのゆるキャラだ。手には剣を握っているのでゆるくはないけど。
着ぐるみの視界は悪いかと思ったが視界は良好で顔の周りは透けて周囲の様子がよく見える。
「ふざけてないと言うのであれば、早くそのスライムを倒してみたまえ」
レイニート様の言葉に視線をスライムに向けた。
このスーツの性能がどれほどかわからないけど、この着ぐるみなら鞭打ちされても痛くないかも……えっ!?
剣を握った右腕が勝手に持ち上がる、何これ、気持ち悪い!!
地を蹴って大きく飛び跳ねた俺の体はスライムへ向けて一直線にその剣を突き刺した。
ブシャアアァァァッ!!
「うわぁぁぁっ!!」
思わず目を瞑ってしまったが吹き出したスライムの粘液が俺の顔を汚すことはなかった。
そうか、被り物してるんだった。
「ほう、ふざけているのかと思ったらやるじゃないか……なら次はこいつはどうだ?ツノラビックだ」
ツノラビック、本当ならナタリア先生の戦闘教室で出てくるはずだった教材。
ゴーレムに連れられて来たのは、厳つい角は生えてる兎さんだ。
「こんなに可愛い魔物もいるんですね。スライムとは大違いだ」
「見た目に誤魔化され無い方がいいかもね。ツノラビックとはいえ油断してるとその脚力と角はなかなか危険だぞ」
「へぇ~……うわっ!!」
ツノラビックが跳ね上がったかと思うと真っ直ぐにこちらに角を向けて落下してくる。
俺の体はそれを華麗に除けたかと思うと、角から落下し地面に突き刺さる無防備なツノラビックの体を……。
裂ける体、降りかかる血飛沫。
スライムの元とは違う生々しい血肉……。
「うわあぁぁぁぁっ!!血っ!!血が!!」
だから俺はスライムだけを倒してLv.5にしたかったのに!!スライム以外は手を抜いてスライムしか倒せない姿勢を目指すつもりだったのにっ!!
「自分でやっておいて何を騒いでいるんだい、君は」
俺じゃ無い、俺じゃ無いんです!!
動いているのは俺の手だけど動かしてるのは俺じゃ無いんだっ!!
ま……まさか、テイムしようと思って作ったぬいぐるみにテイムされる事になるとは……。
「ツノラビックを瞬殺か、なら次はゴートラカペルを試してみるか?」
ゴーレムに二本の角を掴まれ連れてこられたのは……山羊だか牛だか猪だか、なんだかわからないが見るからに凶暴!!
既に後ろ足が足踏みしていて……ゴーレムが手を離した瞬間、俺に向かって突進をして来た。
ザンッ……。
く……首ぃ~っ!!
全身着ぐるみなので俺の体に全く血は触れてないし匂いもしないのだが、良すぎる視界で繰り広げられるスプラッターと激しすぎるゴア。
「凄いじゃないかシーナ君、この調子でもう少し行ってみようか」
レイニート様のゴーレム達が次々に魔物を連れてくる。
「いや、や……もうやめて……やあぁぁぁぁっ!!」
ーーーーーー
「……はっ!!」
気がつくと俺は血の海の中に立ち尽くしていた。
どうやらあまりの恐怖に立ったまま気を失っていたらしい。
「お疲れ様シーナ君、もう打ち止めだ。Lv.3を飛び越してLv.4だね、おめでとう。これでルノルトスより僕が教師としては優秀という事が立証されたね」
「Lv.4……」
どうやら俺が気を失っていた間も俺は魔物を殺し続けていた様だ。
どうやって敵と敵じゃ無い者とを区別しているんだろう……俺が敵として認識しているものが攻撃対象ならどうしてレイニート様は生きているんだろう……。
気を失っていただけだけど疲れた……疲れたよ。
無言で血の海から上がると着ぐるみの頭部を外した。
風に乗って漂う血の匂い……残念だが現実の様だ。
「随分と疲れているね。どうだい?今日は僕の屋敷で夕食を用意してあげよう。ゆっくりお風呂に浸かり僕と一緒に寝ようじゃ無いか」
脱いだ着ぐるみを収納鞄に仕舞い込み、レイニート様に頭を下げた。
「きょうはありがとうございました。せっかくのおさそいですが、はやくかえりたいのでしつれいします」
「そうかい?僕はこの魔物の残骸を片付けがあるからゴーレムに送ら……いや、迎えが来た様だな」
レイニート様の言葉に顔を上げて、その視線の先を追うと畑の中の一本道をこちらに歩いてくる、見慣れた制服。
俺が振り返ったのに気づいたのか手を振ってくれて、振り返そうと思った瞬間にはもう抱きしめられていた。
「シーナ、凄いじゃないか!!これ全てシーナがやったのか?レベルも4まで上がって、頑張ったんだね……でも顔色が良くないな?」
ルノさんの笑顔に安心した途端、涙が溢れ出て目の前の体に抱きついた。
「い……いっぱい血が出て……怖くて……嫌なのに、それでも無理やり動かせられて……」
足元に残る惨劇の跡、思い出すとまた恐怖が蘇りルノさんの胸に顔を押しつけた。
「レイニート様……これはどういう事かご説明願えますか……」
「誤解するなルノルトス。シーナ君、動揺しているわりに的確に重要部の省略ありがとう」
「誤解?ならその鞭はなんですか?」
「愛の鞭さ。結果的に使っていないのだからいいだろう?シーナ君、何があったか教えるためにもう一度戦ってみせるかい?」
もう一度戦えと言われてももう戦意は完全に喪失している。
「嫌ですよ。もう打ち止めだってレイニート様が言ったじゃないですか……ルノさん帰りましょう。魔物の血はルノさんに良くないですよね?」
涙を拭きながらルノさんの手を引っ張るけどルノさんの体は動かない。
振り返るとルノさんは真っ直ぐにレイニート様を睨んでいる。
「ルノルトスが感情剥き出しの瞳を僕に向けてくるのは快感だが、これ以上はさすがに命が危なそうだ。シーナ君、涙が落ち着いたのなら君から説明をしたまえ」
珍しくレイニート様の顔が引きつり気味だ。あの『戦闘服』のこと説明しなきゃ駄目なのかぁ。
「レイニート様……何をされたのか、シーナの口から言わせる気ですか……?」
かなりスパルタだった。
これ以上は心が折れると訴えても次から次に魔物出してきて、何気にどんどん大型の魔物になっていってた。
「レイニート様が俺の為を思ってしてくれたのはわかってるんですが……俺が……」
俺の戦闘スタイルを話すのはとても気が引ける。
ルノさんはレベル上げの為とはいえ俺が魔物を殺す事、あんまりよく思ってない様で、俺の手を汚すぐらいなら自分がって言って先に倒してしまうぐらいだから……。
着ぐるみに操られていたとはいえ、客観的に見たら嬉々として魔物殺しを楽しむ様に飛び掛かり、魔物の血にまみれそれでも笑顔で立つ着ぐるみのあの姿を、見られたら引かれる……最悪嫌われるかも……ルノさんに軽蔑の目を向けられるのは辛いなぁ。
「俺が……汚れてるとしても嫌わないでいてくれますか?」
俺が惨殺したらしい魔物の血の海が一瞬で干上がり、代わりに火の海と化した。
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