70 / 331
第二章 鏡の地獄
蜘蛛を助けた男1
しおりを挟む
シロキさん
カドが新雪に描く足跡を追う。僕の目の届く場所にいて。
「あまり、遠くに行っちゃだめだよ」
カドの背中に声をかけたその時、急に頭がくらくらして僕は雪の中に膝をついた。
――あれ?
規則的に何かに打ち付けられるような感覚が襲ってくる。僕はそのまま前のめりに倒れ込んだ。雪がとても冷たく柔らかい。
「おい、どうした」
ナイトが駆け寄ってきて僕の肩を支えた。僕を仰向けにして肩に腕を入れ、不安気に覗き込む。
こんなことをされたのは初めてだ。青空を背景にしたその顔を見て、ああ、そんな表情も出来るんだな、と薄い意識の中で嬉しくなった。
「ごめん、たぶん門に共鳴してる」
今は僕にもそれしかわからない。
「シロキさん!」
雪の上を滑る音がしたと思うと、カドが僕の横に座り込み手を強く握っていた。
繰り返す痛みが、徐々に血管や神経をバラバラにされるような、独特なものに変わってきた。
取り乱すかと思ったカドは、声も出さずに下を向き、握った手から自分の力を僕に送り始めた。凄いな、痛みが和らいでくる。
「門に戻ろう。シロキ、歩けるか?」
「カドのおかげで動けそうだ。早く戻らないと。あれ?」
立ち上がると、真っ白な雪に赤い小さな染みが出来ていて、自分の頬をつたっていた生ぬるいものが涙ではなく血だと知った。自分の中を流れていたとは思えない。とてもきれいだ。
指で血を逆になぞると頭の横に浅い傷があった。本体の僕にまで傷がつくなんて、今頃門はどうなってしまってるんだ。
「無理するな」ナイトは小声でそう言うと、僕の手を取って走り出した。斜め後ろを振り返ると、カドが意外なほどしっかりした表情をしてついて来ていた。口を固く結んで、目は真っすぐ前を見ている。そして驚いたことに、門が近づくと、僕とナイトを追い越し前に出て、躊躇いもなく門を開いた。
僕はナイトに抱え込まれ、ほとんど崩れ落ちるように鏡の空間に入った。
カドが新雪に描く足跡を追う。僕の目の届く場所にいて。
「あまり、遠くに行っちゃだめだよ」
カドの背中に声をかけたその時、急に頭がくらくらして僕は雪の中に膝をついた。
――あれ?
規則的に何かに打ち付けられるような感覚が襲ってくる。僕はそのまま前のめりに倒れ込んだ。雪がとても冷たく柔らかい。
「おい、どうした」
ナイトが駆け寄ってきて僕の肩を支えた。僕を仰向けにして肩に腕を入れ、不安気に覗き込む。
こんなことをされたのは初めてだ。青空を背景にしたその顔を見て、ああ、そんな表情も出来るんだな、と薄い意識の中で嬉しくなった。
「ごめん、たぶん門に共鳴してる」
今は僕にもそれしかわからない。
「シロキさん!」
雪の上を滑る音がしたと思うと、カドが僕の横に座り込み手を強く握っていた。
繰り返す痛みが、徐々に血管や神経をバラバラにされるような、独特なものに変わってきた。
取り乱すかと思ったカドは、声も出さずに下を向き、握った手から自分の力を僕に送り始めた。凄いな、痛みが和らいでくる。
「門に戻ろう。シロキ、歩けるか?」
「カドのおかげで動けそうだ。早く戻らないと。あれ?」
立ち上がると、真っ白な雪に赤い小さな染みが出来ていて、自分の頬をつたっていた生ぬるいものが涙ではなく血だと知った。自分の中を流れていたとは思えない。とてもきれいだ。
指で血を逆になぞると頭の横に浅い傷があった。本体の僕にまで傷がつくなんて、今頃門はどうなってしまってるんだ。
「無理するな」ナイトは小声でそう言うと、僕の手を取って走り出した。斜め後ろを振り返ると、カドが意外なほどしっかりした表情をしてついて来ていた。口を固く結んで、目は真っすぐ前を見ている。そして驚いたことに、門が近づくと、僕とナイトを追い越し前に出て、躊躇いもなく門を開いた。
僕はナイトに抱え込まれ、ほとんど崩れ落ちるように鏡の空間に入った。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
天才テイマーが変態である諸事情記
蛇ノ眼
BL
天才テイマーとして名をはせる『ウィン』。
彼の実力は本物だが……少し特殊な性癖を持っていて……
それは『魔物の雄しか性的対象として見る事が出来ない』事。
そんな彼の夢は……
『可愛い魔物ちゃん(雄のみ)のハーレムを作って幸せに過ごす!』事。
夢を実現させるためにウィンの壮大な物語?が動き出すのだった。
これはウィンを取り巻く、テイマー達とその使い魔達の物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
アタエバネ ~恵力学園一年五組の異能者達~
弧川ふき
ファンタジー
優秀な者が多い「恵力学園」に入学するため猛勉強した「形快晴己(かたがいはるき)」の手首の外側に、突如として、数字のように見える字が刻まれた羽根のマークが現れた。
それを隠して過ごす中、学内掲示板に『一年五組の全員は、4月27日の放課後、化学室へ』という張り紙を発見。
そこに行くと、五組の全員と、その担任の姿が。
「あなた達は天の使いによってたまたま選ばれた。強引だとは思うが協力してほしい」
そして差し出されたのは、一枚の紙。その名も、『を』の紙。
彼らの生活は一変する。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事などとは、一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる