奇跡の神様

白木

文字の大きさ
上 下
60 / 331
第二章 鏡の地獄

シロキさんの縛り1

しおりを挟む
シロキさん


「雷が鳴ったよ。今夜、一緒に落ちよう」

 カドのはしゃぐ声がして僕は振り返った。

 透明の鏡の床に膝と両手をついて、下に広がる空を除き込んでいる。色白の顔に淡い紫色の着物が良く似合う。稲妻が光る度に無邪気な表情を照らす。この子が僕の使いだという幸せが今でも信じられない時がある。僕もカドの横に両膝をついた。

「確かに、今のうちに降りると楽かも知れない」

 僕の鏡の門の移動には他の神様と同じように縛りがある。

 僕たちは雷と一緒でなければ地獄から人間の世界に降りることが出来ない。僕の門は下降の時の方が負荷が大きい。元々が浮く作りなのだから当たり前ではあるが、落雷の勢いを借りないと降りられない自分の力の弱さを、移動の度に感じる。

「カド、僕につかまって」

 腕を掴むカドの温かい感触が好きだ。

 僕は目を閉じ、雷鳴を聞く。さあ、次の音に合わせて、僕らも一緒に落ちよう。


「シロキさん、見て! 鳥がいる」

 カドの視線の先を追うと、遠くに首の長い、白く大きな鳥の群れが、頭からゆっくりと下降しているのが見えた。

「ああ、珍しいな。偶然だね。あの群れの中に入ってみようか」

「大丈夫? 鳥がぶつかったりしない?」

「陸の鳥と違って、鏡を見分てけ避けるさ」

 大きな羽に雨を受け、優雅に落ちる鳥と、空の血管のように脈打って光る激しい稲妻を映しながら、僕は鏡の門を回転させ地上へ向かう。本当はこんなことする必要はないのだけれど、カドを喜ばせたくて、僕はいつも無理をしてしまう。

「きれいだなあ。俺も鳥になった気分だ。ねえ、シロキさん、この鳥、人間には見えないの?」

「見えないだろね。特定の人間にしか。お前がもう少し成長したらあの鳥が何なのか教えてあげるよ」

「俺は子どもじゃないよ」

 この子は不貞腐れてもかわいいから、ついからかってしまう。

 でも僕は機嫌の直し方も知っている。


 この夜、僕は夏の匂いが残る浜辺に門を降ろした。海が雨粒を受け、激しく踊っている。周囲に全く人影はない。

「カド、外へ出てみようか」

 カドの顔が鳥の群れを見ていた時以上に輝いた。本当に素直な笑顔だ。大好きだ。

「いいの?」

 僕は普段、人間の世界ではカドを門の外に出さないようにしている。

 人間の世界には汚れたものが多いから、この子に触れさせたくない。 

 その代わり、地獄では割と自由にさせている。この子が気にいっている炎の地獄や水の地獄へなんかは、しょっちゅう一人で行かせている。 

 この間、水の地獄で間欠泉に遭遇したところをシスが見つけ、手を引いて連れ帰ってくれた時は恐縮したけれど。

 カドは水で消えるなんて事はないが、怪我も、怖い思いも絶対にさせたくないから、これからは必ずシスと一緒に歩くように言い聞かせた。

 僕は過保護なんだろうか。いや、ただ、自分の使いが大切なだけだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...