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第一章 奇跡の神様
人間の世界へ5
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空間の白い明かりで照れされた鏡が波打ち始める。床が溶けてもカドは落ちないのか?
立ち上がったカドは浜辺の白い波に足元を覆われているように見える。
その場所から俺に手を伸ばして微笑んだ。
「エンド、俺の所まで来て」
恐る恐る白銀の波に足を踏み入れる。心地の良い冷たさと、砂に足をすくわれるような感触が伝わってきた。カドが俺の腕を掴んで自分に引き寄せる。
「悪魔の移動は二回目だし、お前がどうなるか心配だ。俺から離れないで」
二回目? 一度目は鏡の悪魔のことか。やはりこいつは遠い過去も少しずつ思い出してきている。
「離れるな、か。頼もしいな。わかったよ」
何だか誇らしい気持ちでカドの腕を掴み返した。
「ルキルくん、移動の準備はいい? 人間の世界の門を開くよ」
そう言った途端足元から突風が吹き込んだ。
音もせず扉が開いたのだ。
「シロキさんは静かな方が好きなんだ」
カドが独りごとのように呟く。
「僕の門を通します」
ルキルくんの言葉を合図に、岩の門が大きな機械のようにきしんだ音を立て、床と平行に浮き上がって止まった。そして次の瞬間、勢いよく波打つ床を貫いた。巨大な鏡のうねりが起き、下からの突風を押し返しながら、門が銀色の光を纏って扉の外に飛び出して行った。
「僕の後から飛び込んでください」
ルキルくんが門の軌跡に沿って滑り落ちた。
ファミドも楽しそうに一度高く跳ねると、そのまま頭から波打つ床に飛び込んでルキルくんの後を追った。
俺が考える間も与えず、カドが俺の手を握ったまま、背中から床に倒れた。カドを下にしたまま鏡の床を通過し、門の外に出る。
「加速するから絶対に離すなよ」
門を出てから数十秒、周囲は漆黒と静寂の空洞が続いた。不思議と堕ちていくという感じはしなかった。カドに抱かれながら浮いていると言った方がしっくりくる。心地よくてこのままずっと堕ちていたいと願っていた。
バンっという衝撃音で我に返ると海の中にいた。というより、まだ海中を落ちている最中だった。ぶくぶくと気泡の音がして、水中だということを実感する。幸い人間の世界の海では陸地と変わらず会話できそうだ。
光の届かない夜の海は暗闇だと想像していたのに、海底に降りたルキルくんの門が近づくにつれ、周囲がどんどん明るくなっていく。
途中、青く平たい大きな魚と目が合った。愛嬌のある顔た。
「魚ってかわいいな」
「人間の世界の最初の感想がそれかよ」
カドがゆっくりと俺をルキルくんの門の前に降ろした。
ルキルくんとファミドが先に海底に着き、俺たちを待っていた。尻尾を振るファミドの銀色の毛皮が水中でゆらゆら揺れている。
「ファミドは水の中にいると余計にかわいいな」
「お前、さっきからかわいいしか言ってないな」
「カドさん、エンドさん少しよけて下さい。魂を送りますから」
そう言うルキルくんの声でふと落ちて来た方を振り返る。そこには地獄にある鏡の空間に通じる透明な筒状の通り道があった。
その中を勢い良く、魚の群れのように赤く燃えた魂が登っていく。夜の海底が異常に明るかったわけだ。送られるのを待つ人間の魂が海に溶けていたのか。
これは、地上から見たら巨大な光柱に見えるに違いない。
「俺が好きな景色なんだ。魂の群れ。魚の群れみたくきらきら光って。なあ、エンド、俺にこれから何が起こっても、今のこの景色と俺のこと覚えていてくれるか」
カドはこれから起きることを知っている。説明はできないが俺にはそれがわかる。
何故だろう、カドと共鳴しているのかも知れない。こいつに炎の悪魔の血が流れているせいか。
「ずっと覚えてるよ」
俺は静かに言った。
立ち上がったカドは浜辺の白い波に足元を覆われているように見える。
その場所から俺に手を伸ばして微笑んだ。
「エンド、俺の所まで来て」
恐る恐る白銀の波に足を踏み入れる。心地の良い冷たさと、砂に足をすくわれるような感触が伝わってきた。カドが俺の腕を掴んで自分に引き寄せる。
「悪魔の移動は二回目だし、お前がどうなるか心配だ。俺から離れないで」
二回目? 一度目は鏡の悪魔のことか。やはりこいつは遠い過去も少しずつ思い出してきている。
「離れるな、か。頼もしいな。わかったよ」
何だか誇らしい気持ちでカドの腕を掴み返した。
「ルキルくん、移動の準備はいい? 人間の世界の門を開くよ」
そう言った途端足元から突風が吹き込んだ。
音もせず扉が開いたのだ。
「シロキさんは静かな方が好きなんだ」
カドが独りごとのように呟く。
「僕の門を通します」
ルキルくんの言葉を合図に、岩の門が大きな機械のようにきしんだ音を立て、床と平行に浮き上がって止まった。そして次の瞬間、勢いよく波打つ床を貫いた。巨大な鏡のうねりが起き、下からの突風を押し返しながら、門が銀色の光を纏って扉の外に飛び出して行った。
「僕の後から飛び込んでください」
ルキルくんが門の軌跡に沿って滑り落ちた。
ファミドも楽しそうに一度高く跳ねると、そのまま頭から波打つ床に飛び込んでルキルくんの後を追った。
俺が考える間も与えず、カドが俺の手を握ったまま、背中から床に倒れた。カドを下にしたまま鏡の床を通過し、門の外に出る。
「加速するから絶対に離すなよ」
門を出てから数十秒、周囲は漆黒と静寂の空洞が続いた。不思議と堕ちていくという感じはしなかった。カドに抱かれながら浮いていると言った方がしっくりくる。心地よくてこのままずっと堕ちていたいと願っていた。
バンっという衝撃音で我に返ると海の中にいた。というより、まだ海中を落ちている最中だった。ぶくぶくと気泡の音がして、水中だということを実感する。幸い人間の世界の海では陸地と変わらず会話できそうだ。
光の届かない夜の海は暗闇だと想像していたのに、海底に降りたルキルくんの門が近づくにつれ、周囲がどんどん明るくなっていく。
途中、青く平たい大きな魚と目が合った。愛嬌のある顔た。
「魚ってかわいいな」
「人間の世界の最初の感想がそれかよ」
カドがゆっくりと俺をルキルくんの門の前に降ろした。
ルキルくんとファミドが先に海底に着き、俺たちを待っていた。尻尾を振るファミドの銀色の毛皮が水中でゆらゆら揺れている。
「ファミドは水の中にいると余計にかわいいな」
「お前、さっきからかわいいしか言ってないな」
「カドさん、エンドさん少しよけて下さい。魂を送りますから」
そう言うルキルくんの声でふと落ちて来た方を振り返る。そこには地獄にある鏡の空間に通じる透明な筒状の通り道があった。
その中を勢い良く、魚の群れのように赤く燃えた魂が登っていく。夜の海底が異常に明るかったわけだ。送られるのを待つ人間の魂が海に溶けていたのか。
これは、地上から見たら巨大な光柱に見えるに違いない。
「俺が好きな景色なんだ。魂の群れ。魚の群れみたくきらきら光って。なあ、エンド、俺にこれから何が起こっても、今のこの景色と俺のこと覚えていてくれるか」
カドはこれから起きることを知っている。説明はできないが俺にはそれがわかる。
何故だろう、カドと共鳴しているのかも知れない。こいつに炎の悪魔の血が流れているせいか。
「ずっと覚えてるよ」
俺は静かに言った。
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