奇跡の神様

白木

文字の大きさ
上 下
26 / 331
第一章 奇跡の神様

鏡の使い6

しおりを挟む
 翌日の夕方、うっすら白い雪の積もる岬で、太陽が急ぎ足で反対側の山に消えるのを見ながら、俺はシロキさんのことが心配でたまらなかった。夜が来そうで来ないこの時間の独特な空気が余計に不安を募らせる。大粒の雪も降ってきた。

 ―シロキさん、早く戻って来て。

 しばらくして、ザッザッと雪を掻きながら走る複数の足音が聞こえた。始めに見えたのは人間の少年と手をつないで向かってくるシロキさんだった。

 人間と仲良くなって、はしゃいで手を引いているのではないことは直ぐに分かった。

 固い表情で赤くなるほど人間の手を握っている。手を引かれている人間はといえば、足を絡ませヨタヨタこそしているが、表情はシロキさんより落ち着いているように見える。

「シロキさん、何やってるんだ。その子、誰だよ」

 俺が声をかけた、次の瞬間、二人の後ろに黒い影が三つ顔を現した。いや、正確には顔はなかった。かろうじて人型とわかる影の中で、細かな白色の光が流れるように瞬いている。

 ……幽霊? シロキさん、そいつらに追われているのか?

 さらにその後ろから黒い着物を着た悪魔が現れた。

 え……あいつ何でここにいるんだ。それは俺も良く知っている悪魔だった。

 手前からシロキさんと人間の少年、顔のない三体の幽霊、俺の知る悪魔。突然目の前に現れた光景に俺はさっぱり理解が追いつかなかった。

「カド、この子をお願い」

 シロキさんが俺まであと数秒のところで少年の手を離し、俺の方へ突き出した。

「お願いって、鏡の中に入れろってこと?  無理だよ、出来ない」

 俺はきっぱり断った。人間は俺の中で魂の状態でしか存在できない。実態ごと中に入ったりしたら身体が溶けて蒸発してしまう。

 シロキさんだって良く知ってるだろう。シロキさんの頼みでも無理だ。

「魂だけでも助けてあげたいんだ、お願いだから言うことを聞いて」

 少年が俺をすがるような目で見ていた。透明の俺の姿が見えてるのか?

「こんなことさせてごめん。お前は悪くないから、この子の魂を救って」

 良くわからないが、シロキさんの圧に耐えられなくなって、俺は少年の目の前の鏡を液体化した。本当に嫌だ。

「……入れよ」

 自分の声が震えている。やだ、シロキさん、止めさせて。

 この子は俺の中に入ると身体が無くなってしまうことを知らないんだ。俺はとんでもないことをしている。少年は水銀のように垂れて歪む鏡に触れると俺の中に入ってきた。

 俺は一分にも満たない時間、その子のほっとしたような無邪気な表情を映した。この顔をずっと鏡の中に記憶しておこうと思った。

 そしてその子は瞬く間に魂だけになった。

「……何だ? この魂」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...