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第一章 奇跡の神様
炎の地獄1
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炎の地獄 エンド
「蜘蛛を助けた男の話を知ってるか」
岩の上に寝そべっている青年に話しかけた。
「昔、蜘蛛を助けたとかで極楽行きの糸が垂れてきた男がいたって話だ。聞いたことないか? 結局、失敗したようだが」
俺の声が暗く深い洞窟で反響した。
「知っているような気もするな……それがどうかした?」
青年はこめかみの辺りを押さえ、何かを思い出そうとしているようで、少し苦しそうな顔をした。
「いや、お前が何か思い出さないかと思って色々話してみているけど逆効果か。俺もこのままだと対処に困る。寒いか?」
青年が白い着物を痩せた胸の前で掻き寄せている。
カド――名前しかわからないそいつのために、俺は炎を作って地面に浮かべる。
月明りだけだった洞窟が揺れる灯りに照らされた。
「だったら、狐を連れた神様はどうだ。今、水の地獄にいるらしいぞ。いや、辛くなるなら無理して考えなくていい」
カドが岩から滑り降りてきて、俺の隣に座り、炎に両手をかざした。
「神様は人間の世界と地獄と極楽を行き来できるんだよな。会ったら俺が誰か、教えてくれるかな」
長めの黒い前髪の間から見える目に、期待の光が浮かんだ。
こいつも自分がどこから来たのか知りたがっている。
「行ってみるか? 水の地獄まで、神様に会いに。付き合ってやるぞ」
俺もこんな正体不明なやつは初めてだ。謎がとけるまで見届けたい。
「いいの? でもお前、炎の地獄を出ても平気なのか」
期待の光が不安の色に変わる。俺が炎の悪魔だから心配してくれているのか。こういうところは人間らしい。
「問題ない。他の地獄に入ったからといって、急に消滅したり、水の悪魔と争いになったりしないよ」
カドはほっとしたのか、また無邪気な表情に戻る。
感情はこんなにわかりやすいのに、肝心の記憶はなぜ何も見えてこないのだろう。
俺は座ったまま腕を伸ばし、カドの柔らかい前髪を静かにどけて、額に手を置いた。
――人間の魂の色、悪魔の匂い、神様の感触。
やっぱり全てを感じる。それぞれが透き通っていて美しい。地獄に送られる必要のないものばかりだ。
「不意打ちに『判定』しても何も出てこないぞ。別に隠している訳じゃないから」
疑っているようで悪いことをした。俺は手を引っ込めた。
「そうだよな、お前が一番苦しいよな。すまない」
謝っただけなのに、カドは俺を見つめ
「ふっ」と笑う。
「なあ、エンド、お前、優しいよな。悪魔ってみんないいやつだけど、お前は特に俺に優しい」
こいつに特別に優しくした覚えはない。
「そうか? どの悪魔も似たり寄ったりだろう」
カドは不貞腐れた顔になり不満気に言った。
「なんだ、お前が特別俺だけに優しいのかと思って、ちょっと気分良かったんだけどな」
何を言っているのか、そしてこの短い時間にどれだけ違う表情を見せるのか、飽きないやつだ。
「変なこと言ってないで早く寝ろ。明日の朝、アドバンドに断ってから水の地獄に行こう」
「蜘蛛を助けた男の話を知ってるか」
岩の上に寝そべっている青年に話しかけた。
「昔、蜘蛛を助けたとかで極楽行きの糸が垂れてきた男がいたって話だ。聞いたことないか? 結局、失敗したようだが」
俺の声が暗く深い洞窟で反響した。
「知っているような気もするな……それがどうかした?」
青年はこめかみの辺りを押さえ、何かを思い出そうとしているようで、少し苦しそうな顔をした。
「いや、お前が何か思い出さないかと思って色々話してみているけど逆効果か。俺もこのままだと対処に困る。寒いか?」
青年が白い着物を痩せた胸の前で掻き寄せている。
カド――名前しかわからないそいつのために、俺は炎を作って地面に浮かべる。
月明りだけだった洞窟が揺れる灯りに照らされた。
「だったら、狐を連れた神様はどうだ。今、水の地獄にいるらしいぞ。いや、辛くなるなら無理して考えなくていい」
カドが岩から滑り降りてきて、俺の隣に座り、炎に両手をかざした。
「神様は人間の世界と地獄と極楽を行き来できるんだよな。会ったら俺が誰か、教えてくれるかな」
長めの黒い前髪の間から見える目に、期待の光が浮かんだ。
こいつも自分がどこから来たのか知りたがっている。
「行ってみるか? 水の地獄まで、神様に会いに。付き合ってやるぞ」
俺もこんな正体不明なやつは初めてだ。謎がとけるまで見届けたい。
「いいの? でもお前、炎の地獄を出ても平気なのか」
期待の光が不安の色に変わる。俺が炎の悪魔だから心配してくれているのか。こういうところは人間らしい。
「問題ない。他の地獄に入ったからといって、急に消滅したり、水の悪魔と争いになったりしないよ」
カドはほっとしたのか、また無邪気な表情に戻る。
感情はこんなにわかりやすいのに、肝心の記憶はなぜ何も見えてこないのだろう。
俺は座ったまま腕を伸ばし、カドの柔らかい前髪を静かにどけて、額に手を置いた。
――人間の魂の色、悪魔の匂い、神様の感触。
やっぱり全てを感じる。それぞれが透き通っていて美しい。地獄に送られる必要のないものばかりだ。
「不意打ちに『判定』しても何も出てこないぞ。別に隠している訳じゃないから」
疑っているようで悪いことをした。俺は手を引っ込めた。
「そうだよな、お前が一番苦しいよな。すまない」
謝っただけなのに、カドは俺を見つめ
「ふっ」と笑う。
「なあ、エンド、お前、優しいよな。悪魔ってみんないいやつだけど、お前は特に俺に優しい」
こいつに特別に優しくした覚えはない。
「そうか? どの悪魔も似たり寄ったりだろう」
カドは不貞腐れた顔になり不満気に言った。
「なんだ、お前が特別俺だけに優しいのかと思って、ちょっと気分良かったんだけどな」
何を言っているのか、そしてこの短い時間にどれだけ違う表情を見せるのか、飽きないやつだ。
「変なこと言ってないで早く寝ろ。明日の朝、アドバンドに断ってから水の地獄に行こう」
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