上 下
139 / 227
【外伝1】 セドリックの悪夢

01-4.

しおりを挟む
「ありえない。とんでもない嘘だ!!」

 トムから離れ、従者に掴みかかろうとするセドリックの動きを止めたのはトムだった。普段、頼りのない印象を与えるトムを見る。

「父上、知っていたんですか?」

「……あぁ」

 トムは知っていたのだ。

 従者が駆け込んでくるよりも前にレオナルドの死亡を告げる報告を受け取っていたのだろう。だからこそ、険しい表情を浮かべていたのだ。

 それを理解したセドリックは足取りが不安定になりながらも、従者の横を通りすぎ、その奥にあったソファーに座り込む。

 ……どうして。

 レオナルドは入学を心待ちにしていた。

 親しくしている他の伯爵家の友人たちと一緒に学ぶのだと新品の教科書を抱き締めながら、嬉しそうに語っていた姿を思い出してしまう。

「よく届けてくれた」

 トムは感情の籠っていない声で言った。

「下がれ。しばらくの間、休暇を与える」

 トムの言葉に対して深々と頭を下げた従者は執務室を出ていった。

 状況証拠となる写真を一枚だけ取り、それを伯爵邸に届けることだけが彼を生かしていたのだろう。それをわかっていながらも、トムは休暇を与えた。

 その残酷な仕打ちにセドリックは言及しなかった。

 自分自身がトムの立場にいたのならば、きっと同じことをしただろう。

「ユージン。アリシアとアルフレッドを呼んでくれ」

「……かしこまりした」

 トムの言葉に対し、すべてを悟った顔をした執事は執務室を出ていった。

 元々騒ぎを聞きつけてはいたのだろう。

 伯爵夫人、アリシアと伯爵家の三男、アルフレッドが執務室に駆け込んできたのは十分以内のことだった。

「あなた、レオナルドは無事なのでしょう!?」

 アリシアは執務室に駆け込んだのと同時に叫んだ。

 魔法学院で何らかの問題が起きたことは既にトムから聞かされていたのだろう。その言葉を聞き、露骨に戸惑っているアルフレッドに対し手招きをして自身の隣に座らせる。

 ……嘘だろう。今日、起きたことですらないのか。

 血相を変えて駆け込んできた従者は騎士団の尋問を受けたのかもしれない。

 それでも、証拠となる写真を隠し持ち続けたのだ。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

処理中です...