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第3話 悪役令息は知らない間に破滅を回避していたことを知る

01-7.

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「兄上!」

 感情的に振る舞っていなかったものの、内心は酷く動揺していたのだろう。

 さっさと部屋を退室したセドリックは廊下を走っていた。貴族として長い歴史を歩んできたカルミア伯爵家を継ぐ者として厳しい礼儀作法の授業を受けていたとは思えない。

 セドリックを追いかけるレオナルドは兄がどのような表情を浮かべているのか、わからなかった。

 しかし、仕事の為、廊下を行き来している使用人たちの驚愕の表情を見る限りでは見たこともないような形相で走っていることだろう。

 ……最悪だ。

 レオナルドも廊下を走る。

 感情的になったセドリックは本当に騎士団本部に駆け込みかねない。そして、迷うこともなくジェイドに殴りかかることだろう。

 ……まさか、そうなるとは!

 レオナルドが伯爵邸から出られないような小細工をするだろうとは思っていたが、まさか、立場を捨てるようなことになりかねない行動に手を出すとは思ってもいなかった。

「兄上!!」

 馬車を手配させようとしているセドリックの背中に飛びつく。

 レオナルドも周囲の目を気にしている余裕はなかった。

「レオ?」

 酷く驚いたような顔をしている。

 日頃から最低限の運動しかしないレオナルドが追いかけてくるとは思ってもいなかったのだろう。セドリックは自身の背中に張り付くように突進してきたレオナルドに対して、可愛い子どもを見るような眼を向けていた。

「寂しがりなのは子どもの時と変わらないね」

 甘えられているだけだと思っているようだ。

「少し出かけるだけだよ」

 セドリックはレオナルドを無理に離れさせようとしない。

 ……正常なのか。異常なのか。

 狂っているとしか思えない言動をとるような人だったのならば、レオナルドはセドリックを説得しようと思わなかっただろう。

 ……わからない。

 レオナルドに対して異常な執着心を抱いている。それは兄弟愛の範囲に収まっているのが不気味なくらいに重い感情だった。
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