上 下
50 / 132
第二話「花は花でも彼女は毒花である」

04-6.信じたのは可憐な花か、毒花か

しおりを挟む
「自分の目で見なければ説得をすることはできなかったからね。いつもダリアの後ろに着いて歩くような子だったから、説得すれば引き離せるかもっ思っていたけど、意外と頑固な子に育ったんだね」

「言葉に左右されるような人間は一族にはいないよ」

「そうだね。だから、僕も困っているんだけど」

「なぜ?」

「ダリアが暴走をした時には止める方法がないからだよ。可愛がっている弟にすら発砲するような過激な女性を言葉だけで宥めるなんて至難の業だと思わない?」

「申し訳なく思っているよ。可能な限りは冷静でいるように努めよう」

 話している間にもジェイドは足を止めていなかった。

 ルイスとキスをしているライラックは気付いていないのだろうか。

「うん。せめて彼女が絡む時は魔法だけにしてね」

「それは約束できない」

「どうして? 一年生に負けるような実力じゃないでしょ」

「相性にもよるだろう。その時に応じて武器を変えるのは常識だよ」

 パーシヴァルの眼が冷たい。

 おかしいことを言っただろうか。

「頭の中まで筋肉で出来ているのかな? 実力主義とはいっても令嬢だよね? 社交界の華とか言われていたことだってあったよね? それなのにどうしてそういう発想になるの?」

「不測の事態が起きた場合、足手纏いを庇いながらの応戦することになるのが前提だったからだろうね」

「一応、まだ、婚約をしている相手のことを足手纏いって呼ぶのは止めようよ」

「事実を口にしただけだ」

「あー……、なんだろう。君たちが不仲の原因を見てしまった気がするよ」

「不仲の原因? 性格の不一致により互いへの嫌悪感だろう」

「いや、それ以上のものがあると思うよ」

 悟ったような顔をしている。

 私たちの不仲の原因に興味でもあるのだろうか? 変わった趣味をしている。

「きっと、ダリアにはジェイドの気持ちはわからないのだろうね」

「どうだろうね、ただ、弟が傷つくのは悲しいよ」

「そう。せめて家族に対しては普通の感性を持っているようでよかったよ」

 ジェイドは傷ついただろう。悲しい思いをしたことだろう。

 そうすることが正しかったのか、私にはわからなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...