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第一話「悪は咲き誇る」
02-4.理不尽な扱いには慣れている
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「そうだろうな。子女であるお前ですらもわかるような問題だ。王国最高峰の教育機関に通う者でそのことがわからないような者はいるか?」
四強は辺境伯爵家をまとめた言い方だ。
王国の砦を守る武に優れた家系だからこその呼び名なのかもしれない。
その一角が掌を返すというのは王国を見捨て、砦を受け渡すことを意味する。常に他国からの侵略の危機に怯えている王国にとって危機に陥ることを意味している。
そのことを知らない者は少ないだろう。
少なくとも一般的な常識を持っている貴族ならば理解をしていなければいけない。
「そのような常識の理解ができない者は最高峰の教育を受けるのに値しません」
それらは幼い頃から言い聞かせられるべきことである。
王国を守る為には崩してはいけない常識だからこそ知らないのは許されない。
「しかし、勉学を疎かにする者、武に疎い者、情報に疎い者、様々な条件が重なった者ならば理解をされていない可能性も否定はできません。例年、貴族ではない魔力持ちの入学が認可されている限りは全員が熟知していることとは言い切れないと思います」
アレクシスには与えられてきたはずだ。
彼が婚約者を疎かにして、恋人と密会を繰り広げるのは自滅行為でしかない。
万が一、私が彼のことを慕っており、両親にそのことを密告していたのならば王国を守る砦の一つが危機に晒されていたことだろう。
「お父様、掌を返す恩知らずは我が家にはおりません」
「陛下のお怒りはダリアにも向けられていると言ってもか?」
「お怒りを買って当然のことをいたしました。どのような叱責でも身をもってお受けいたしましょう」
「婚約者が他の女に現を抜かし、あろうことか、それをお前の目の前で隠すこともせずに振る舞ったのだろう? それなのにもかかわらず、お前も不興を買うような真似をしたと言えるのか?」
「このような事態になるまで気付かずに放っておいたのは私の非でしょう。少なくとも婚約者を名乗るのならば最低限の興味を抱くべきでした」
不幸中の幸いというべきか、私は彼を慕っていなかった。
第二王子の権力はない。ブラックウッド辺境伯爵家に婿入りをしたところで彼が権力を握ることはないだろう。
「私は諫めるべきでした。なにより、婚約者として彼への理解を深めるべきだったのでしょう」
形だけの辺境伯爵になるだけだ。
我が家の実権を握ることが許されるのは代々実力のある者だけ。
アレクシスは砦を守るのには実力不足と判断されてしまうことは目に見えていた、もちろん、彼もそのことを自覚していることだろう。
「陛下のご意向には従います。しかし、私にも非はあるということを覚えていただけないでしょうか」
「そこまでして庇う必要はあるか?」
「正直に言うと、庇う必要があるのか、わかりません」
「わからない?」
私はアレクシスを庇護するべきなのかもしれない。
国王陛下の御子であるとはいえ、公式では認められていない愛人の子である彼は形だけの立場しか与えられなかった。
そのことを誰よりも悔しいと思っているのは彼だということも知っている。
四強は辺境伯爵家をまとめた言い方だ。
王国の砦を守る武に優れた家系だからこその呼び名なのかもしれない。
その一角が掌を返すというのは王国を見捨て、砦を受け渡すことを意味する。常に他国からの侵略の危機に怯えている王国にとって危機に陥ることを意味している。
そのことを知らない者は少ないだろう。
少なくとも一般的な常識を持っている貴族ならば理解をしていなければいけない。
「そのような常識の理解ができない者は最高峰の教育を受けるのに値しません」
それらは幼い頃から言い聞かせられるべきことである。
王国を守る為には崩してはいけない常識だからこそ知らないのは許されない。
「しかし、勉学を疎かにする者、武に疎い者、情報に疎い者、様々な条件が重なった者ならば理解をされていない可能性も否定はできません。例年、貴族ではない魔力持ちの入学が認可されている限りは全員が熟知していることとは言い切れないと思います」
アレクシスには与えられてきたはずだ。
彼が婚約者を疎かにして、恋人と密会を繰り広げるのは自滅行為でしかない。
万が一、私が彼のことを慕っており、両親にそのことを密告していたのならば王国を守る砦の一つが危機に晒されていたことだろう。
「お父様、掌を返す恩知らずは我が家にはおりません」
「陛下のお怒りはダリアにも向けられていると言ってもか?」
「お怒りを買って当然のことをいたしました。どのような叱責でも身をもってお受けいたしましょう」
「婚約者が他の女に現を抜かし、あろうことか、それをお前の目の前で隠すこともせずに振る舞ったのだろう? それなのにもかかわらず、お前も不興を買うような真似をしたと言えるのか?」
「このような事態になるまで気付かずに放っておいたのは私の非でしょう。少なくとも婚約者を名乗るのならば最低限の興味を抱くべきでした」
不幸中の幸いというべきか、私は彼を慕っていなかった。
第二王子の権力はない。ブラックウッド辺境伯爵家に婿入りをしたところで彼が権力を握ることはないだろう。
「私は諫めるべきでした。なにより、婚約者として彼への理解を深めるべきだったのでしょう」
形だけの辺境伯爵になるだけだ。
我が家の実権を握ることが許されるのは代々実力のある者だけ。
アレクシスは砦を守るのには実力不足と判断されてしまうことは目に見えていた、もちろん、彼もそのことを自覚していることだろう。
「陛下のご意向には従います。しかし、私にも非はあるということを覚えていただけないでしょうか」
「そこまでして庇う必要はあるか?」
「正直に言うと、庇う必要があるのか、わかりません」
「わからない?」
私はアレクシスを庇護するべきなのかもしれない。
国王陛下の御子であるとはいえ、公式では認められていない愛人の子である彼は形だけの立場しか与えられなかった。
そのことを誰よりも悔しいと思っているのは彼だということも知っている。
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