動画配信者が消えた

第二話「呪われた動画配信者」

０１－３２．

「ドラマじゃねえんだから」

　冷たい声だった。

　感情の籠っていないような声が妙に頭に残る。

「それな！」

　正樹は反射的に返事をした。

「……ん？」

　それから少し考えた。

「今、太ちゃんの声じゃなかったよな？」

「俺は何も言っていないが」

「だよな。実況してるのは俺だし、……じゃあ、あれは誰の声だ？」

　カメラを構えている太一はツッコミを入れるような状況ではない。

　カメラを回し続けることでしか冷静さを保つことが出来ず、なんとか、立っているような状態だ。

「今、俺、返事をしたよな？」

　首を傾げる。

「げっ。ペンキみたいなので汚れたんだけど！　とれねえし！」

　正樹はズボンで手を拭いながらも、実況をやめない。

「ええっと」

　正樹は携帯電話を片手に持ちながら、周囲を見渡した。

「あ、いたいた！」

　正樹にはなにか見えているのだろうか。

「おーい！　こっちだってー！」

　携帯電話が吹き飛ばされるのではないかというほどの勢いで両手を振るいながら、旧友と再会したかのような笑顔を浮かべていた。

「……どうした？」

　太一は不安そうな声を上げた。

「待てよ。今、撮影してるんだって！」

　何かに応えるかのように正樹は歩き出した。

　正樹の耳には得体の知れない声が聞こえているのか。

「マッキー」

　太一には聞こえなかった。

　ただ、親し気に会話をしながら歩いていく正樹の姿を映すのを止められない。

「どこに行くんだよ」

　太一の声には力がない。

　この場を逃げ出さないのは気力が尽きたのか、逃げ出せないと諦めてしまったのか。