動画配信者が消えた

佐倉海斗

文字の大きさ
上 下
34 / 41
第二話「呪われた動画配信者」

01-29.

しおりを挟む
「ミカちゃん!」

 正樹は何気ない会話を続けるかのように名を呼んだ。

 返事はない。既に心肺機能も停止していることだろう。糸の切れた操り人形のように力なく揺れる左腕は今にも千切れそうになっており、両足から血が溢れ出している。

 衝突を繰り返している壁は血塗れになり、地面を濡らしている。内蔵が飛び出ていないものの、それも時間の問題だろう。

「気分はどう!?」

 正樹の問いかけに対し、太一は引いた目を向けた。

「最高だよな!?」

 正樹の目には何かに操られるように壁に衝突をさせられている美加の姿が見えている。それなのに現実離れをした発言ばかりを口走っていた。

「た、たすけ、ないと」

 太一は震える声で訴えた。

 助けようとするのが遅すぎた。もう間に合わない。

 頭の中ではわかっているはずだ。それでも、壊れかけている心の奥底から友人の妹をこのまま死なせてはいけないと訴えられているような気がした。

 カメラを持つ手が震えてしまう。

 それでは動画配信に支障が出ると思ったのだろう。震え始めて腕をなんとかしようと考えるものの、頭が正常に働かない。

「マッキー」

 情けのない声だった。

 酒を大量に摂取したかのような気分の高まりを隠しきれていない正樹の耳には、か細い太一の声は届かない。

「みんな! 俺たちは三人の友人が襲われてしまった!」

 正樹は動画配信を止めるつもりはないようだ。

 正常とは思えない。

 頬は熱があるかのように真っ赤に染まり、視線も定まらない。

 興奮を隠せていないからだろうか。呼吸も乱れつつある。自身がどのような状態なのかも、正樹は理解をしていないのかもしれない。

「ここには悪霊がいる!」

 それどころか、おもむろに携帯電話に触れる。

 そして、トレンドに乱立しつつある自身の名前を見て笑みを零す。

「みんなの目にはおかしいことが映っているみたいだな!?」

 SNSは止まらない。

 再生回数も桁違いに伸び続け、正樹たちの行動が世間の注目を集めている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ロスト・ボーイ・メディア 【このCM探してください】

二階堂まりい
ホラー
ある夜に、私が見ていたネット上の匿名掲示板で起こっていたことの記録です。 過去ログが消失しているようなので、記憶を元に当時の私の感想も交えながらまとめました。 特定を避けるために固有名詞は極力出さないようにしております。 ご理解いただけると幸いです。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

Catastrophe

アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。 「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」 アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。 陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は 親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。 ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。 家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。 4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。

処理中です...