動画配信者が消えた

佐倉海斗

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第二話「呪われた動画配信者」

01-24.

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 太一はカメラを自身の左側に向ける。

 カメラには腕を動かすことなく、正樹たちを追いかける彰の姿が映し出される。彰は太一に視線を向けることも、カメラを向けられていることに気付くこともなく、そのまま太一を追い越していった。

「まーくん!」

 声が震えてしまう。

 カメラの向きを正樹たちに向ける。その背後に音もなく迫っている彰の姿がカメラには映し出されており、視聴者だけはその恐怖を正確に理解していた。

「あーくんが!」

 走りながらではこの状況を正確に伝えられない。

 それでも、太一は必死に声をあげながらも走り続けた。

「あっ」

 美加がバランスを崩した。

 そのまま、地面に叩きつけられるように転倒をする。美加の腕を掴んでいた正樹も引っ張られて、転びそうになった。

「うっ」

 美加は小さな悲鳴を上げた。

「ミカちゃん! 早く! 逃げないと!!」

 正樹は立つように促した。

 その目には美加が転んだだけのように映ったのだろう。

「む、むり、だよ」

 美加の声は震えていた。

 必死に立ち上がろうと両手を動かすものの、美加の下半身は鉛のように重くなっている。

「どうして!?」

 正樹の眼には美加が地面に寝転んでいるようにしか見えない。

「重いの! 動かないの!」

 美加もなにが起きているのか、理解をしていない。

 太一のカメラだけが真実を映し出していた。美加の腰辺りを掴んでいるのは彰だ。両足が動けないように美加の上に座り込んでいる。

「痛い! 痛いよ!!」

 美加は悲鳴上げる。

 原因がわからない正樹は困ったような顔をしながら、携帯電話を弄った。

 それから配信中となっている動画を開く。撮影と同時に配信をされている『心霊スポットを巡って見た!』はカメラ越しの光景が映し出されている。

 それを指摘されたわけではないのにもかかわらず、知っていた。
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