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第一話「物語の始まり」
01-4.
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慌てて口に手を当てるが、誰も少女を気に掛けていない。
「あぁ、やっぱし」
老婆は笑っていた。
それから少女に手を伸ばす。その手は真っ赤に染まっていた。
「ひぃっ」
生きていない。
少女にはそれがわかってしまう。
なぜだろう。あの日、子どもに出会うまでは少女はそういった現象とは無縁だった。幽霊や怪奇現象など信じてもいなかった。
……どうしよう。
目の前の老婆の後ろに立っているのは同級生だ。
同級生は眠たそうな表情をしている。
ゆっくりと老婆から目を逸らして、周囲を見渡すとそこには老婆が立っているだけの隙間などなかった。
……いない。
もう一度、視線を老婆に向けたつもりだった。
そこにはなにもいなかった。
「え、あ、どうして」
電車に揺られている見慣れた同級生たちや同じ高校に通っている生徒だけだ。
誰もがなにもいなかったかのように見える。
少女が声をあげたことに気にしている人はいない。
少女は不意に窓を見てしまった。
……どう、して。
窓には景色しか映っていない。
少女の姿はどこにも映っていない。
「え、あ……。そうだ、鏡……」
少女は高校指定の鞄を持っている。
鞄には触れることができた。中から手鏡を出す。
それは友人とお揃いで買ったものだった。いつも一緒にいる友人の顔を思い出すことができない、いや、それどころか友人の名前すらもわからない。
手鏡を覗き込む。
鏡は割れている。少女の姿はどこにもない。
今日も少女は電車に乗っている。
誰にも気づかれず、幽霊に怯えながら乗っている。
「あぁ、やっぱし」
老婆は笑っていた。
それから少女に手を伸ばす。その手は真っ赤に染まっていた。
「ひぃっ」
生きていない。
少女にはそれがわかってしまう。
なぜだろう。あの日、子どもに出会うまでは少女はそういった現象とは無縁だった。幽霊や怪奇現象など信じてもいなかった。
……どうしよう。
目の前の老婆の後ろに立っているのは同級生だ。
同級生は眠たそうな表情をしている。
ゆっくりと老婆から目を逸らして、周囲を見渡すとそこには老婆が立っているだけの隙間などなかった。
……いない。
もう一度、視線を老婆に向けたつもりだった。
そこにはなにもいなかった。
「え、あ、どうして」
電車に揺られている見慣れた同級生たちや同じ高校に通っている生徒だけだ。
誰もがなにもいなかったかのように見える。
少女が声をあげたことに気にしている人はいない。
少女は不意に窓を見てしまった。
……どう、して。
窓には景色しか映っていない。
少女の姿はどこにも映っていない。
「え、あ……。そうだ、鏡……」
少女は高校指定の鞄を持っている。
鞄には触れることができた。中から手鏡を出す。
それは友人とお揃いで買ったものだった。いつも一緒にいる友人の顔を思い出すことができない、いや、それどころか友人の名前すらもわからない。
手鏡を覗き込む。
鏡は割れている。少女の姿はどこにもない。
今日も少女は電車に乗っている。
誰にも気づかれず、幽霊に怯えながら乗っている。
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