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第一話「物語の始まり」
01-2.
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……ひいっ!!
声が出なかった。
身体中から血の気が失せる。子どもに手を伸ばされている。
……逃げないと。
あの手に掴まれたらおしまいだ。
それは勘だった。電車の揺れが収まる。
……逃げないと。
少女が下りる駅ではなかった。
しかし、そんなことは言っていられなかった。
大急ぎで電車を降りる。誰も少女の慌てた姿を気にしない。居眠りをしていたのだろうと思われているのかもしれない。それは少女の隣に立っていた男性も同じだった。
駅のホームに足をつける。
少女が降りた直後、電車は出発した。
「う、わ……」
思わず、振り返ってしまった。
誰も気付いていないのだろう。電車の窓は全て血だらけだった。
子どものような手形がたくさんついている。そして、出発した電車の中から男性にしがみついたままの子どもが外を睨みつけていた。
それは子どもだと認識をしていなければ、子どもには思えなかっただろう。
黒い煙のようにも見えた。
楽しそうに笑っている。
逃がさないと言いたげな顔をしている。
少女は電車が去るまで動けなかった。
* * *
思い返せば、それが少女の不幸の始まりだった。
電車に乗ると少女は寒気に襲われた。寒気がする方向を見ないように気を付けているのだが、なにかの拍子でそれらは少女の視界に入り込む。まるで気付いているのだろうと訴えているかのようにも思えて仕方がなかった。
電車を変えるわけにはいかなかった。
少女が通う高校にはこの電車に乗る以外の方法はない。自転車通学を選べば、少女は毎朝一時間半以上もかけて自転車を漕がなくてはいけない。とても、それをする体力も勇気もなかった。
時間を変える選択肢もなかった。
一本前の電車に乗れば学校が開くまでの一時間をどこかで潰さなくてはならず、一本後の電車に乗れば遅刻は避けられない。
声が出なかった。
身体中から血の気が失せる。子どもに手を伸ばされている。
……逃げないと。
あの手に掴まれたらおしまいだ。
それは勘だった。電車の揺れが収まる。
……逃げないと。
少女が下りる駅ではなかった。
しかし、そんなことは言っていられなかった。
大急ぎで電車を降りる。誰も少女の慌てた姿を気にしない。居眠りをしていたのだろうと思われているのかもしれない。それは少女の隣に立っていた男性も同じだった。
駅のホームに足をつける。
少女が降りた直後、電車は出発した。
「う、わ……」
思わず、振り返ってしまった。
誰も気付いていないのだろう。電車の窓は全て血だらけだった。
子どものような手形がたくさんついている。そして、出発した電車の中から男性にしがみついたままの子どもが外を睨みつけていた。
それは子どもだと認識をしていなければ、子どもには思えなかっただろう。
黒い煙のようにも見えた。
楽しそうに笑っている。
逃がさないと言いたげな顔をしている。
少女は電車が去るまで動けなかった。
* * *
思い返せば、それが少女の不幸の始まりだった。
電車に乗ると少女は寒気に襲われた。寒気がする方向を見ないように気を付けているのだが、なにかの拍子でそれらは少女の視界に入り込む。まるで気付いているのだろうと訴えているかのようにも思えて仕方がなかった。
電車を変えるわけにはいかなかった。
少女が通う高校にはこの電車に乗る以外の方法はない。自転車通学を選べば、少女は毎朝一時間半以上もかけて自転車を漕がなくてはいけない。とても、それをする体力も勇気もなかった。
時間を変える選択肢もなかった。
一本前の電車に乗れば学校が開くまでの一時間をどこかで潰さなくてはならず、一本後の電車に乗れば遅刻は避けられない。
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