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第一話「物語の始まり」
01-1.
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その電車が混み合う時間は決まっている。
平日に走る電車の中でも午前七時発のものと午後六時発のものだ。どちらも理由は決まっている。高校生が通学に使っているのだ。
それ以外の時間帯では滅多なことでは混み合わない。
田舎を走る電車。
利用客が多い時間帯は一時間に一本、少ない時間帯は二時間に一本しか走らない。田舎では珍しくもない話だ。
……今日は混んでるな……。
部活があったのだろう。
少女はいつも乗っている電車よりも一本後の電車に乗っていた。午後七時に高校の最寄り駅を出発した電車だが、珍しく、押しつぶされそうなくらいに混み合っている。
……それにしても、寒い。
電車の揺れと共に乗客はぶつかり合う。
避けることもできない混み方をしている。テレビ中継で目にしたことがある満員電車のような状態にもかかわらず、寒いとはどういうことだろうか。
少女は荷物を持っていない左側だけが寒さを感じていた。
思わず身震いをする。
寒さに耐えながらも電車に乗っていると、ふと、少女はあることに気付く。
……え。
声を出せなかった。
少女の左側に立っている男性の顔色は青褪めていた。片手で器用に本を捲る男性は少女の視線に気づいていないのだろう。無表情で本を読み続けている。
男性はなにも違和感はないのだろうか。
少女は男性から目を離せない。――いや、男性の身体にしがみついている子どもから目が離せなかった。
……いや、いや、だって、そんなの。
子どもがしがみついている。
重たそうな表情には見えない。そもそも、子どもが入る隙間などない。
少女の視線に気づいたのだろうか。男性にしがみついていた子どもが顔をあげた。
子どもの眼は見開かれていた。
今にも零れ落ちそうだった。眼からは赤黒い血が流れている。
少女の視界に写っていることに気付いているのだろう口角が裂けてしまいそうな歪な笑みを浮かべた。
平日に走る電車の中でも午前七時発のものと午後六時発のものだ。どちらも理由は決まっている。高校生が通学に使っているのだ。
それ以外の時間帯では滅多なことでは混み合わない。
田舎を走る電車。
利用客が多い時間帯は一時間に一本、少ない時間帯は二時間に一本しか走らない。田舎では珍しくもない話だ。
……今日は混んでるな……。
部活があったのだろう。
少女はいつも乗っている電車よりも一本後の電車に乗っていた。午後七時に高校の最寄り駅を出発した電車だが、珍しく、押しつぶされそうなくらいに混み合っている。
……それにしても、寒い。
電車の揺れと共に乗客はぶつかり合う。
避けることもできない混み方をしている。テレビ中継で目にしたことがある満員電車のような状態にもかかわらず、寒いとはどういうことだろうか。
少女は荷物を持っていない左側だけが寒さを感じていた。
思わず身震いをする。
寒さに耐えながらも電車に乗っていると、ふと、少女はあることに気付く。
……え。
声を出せなかった。
少女の左側に立っている男性の顔色は青褪めていた。片手で器用に本を捲る男性は少女の視線に気づいていないのだろう。無表情で本を読み続けている。
男性はなにも違和感はないのだろうか。
少女は男性から目を離せない。――いや、男性の身体にしがみついている子どもから目が離せなかった。
……いや、いや、だって、そんなの。
子どもがしがみついている。
重たそうな表情には見えない。そもそも、子どもが入る隙間などない。
少女の視線に気づいたのだろうか。男性にしがみついていた子どもが顔をあげた。
子どもの眼は見開かれていた。
今にも零れ落ちそうだった。眼からは赤黒い血が流れている。
少女の視界に写っていることに気付いているのだろう口角が裂けてしまいそうな歪な笑みを浮かべた。
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