後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第三話 賢妃の才能は底知れない

03-6.

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 ……恨む?

 そう問われたのは初めてだった。

「後宮入りをしたのは父上に命じられたからです」

 香月は答えた。

 それ以外の理由を口にするわけにはいかない。

「翠蘭姉上の死を悼むことはあっても、恨むことはありません」

 香月の言葉に美雨は酷く驚いていた。

 ……恨んでいると思われていたのか。

 意外だった。

 身内の死を悼むことはあったとしても、恨みはない。

 ……それはそうか。

 玄家の当主候補から外され、後宮妃に選ばれたのだ。翠蘭が役目を果たせていたのならば、香月は後宮に来ることはなかった。

 恨んでいると思われていてもしかたがないことだった。

「……真っすぐすぎて痛々しいわ」

 美雨は目を細めた。

「後宮は華々しい場所じゃないのはわかっているくせに。どうして、そこまで純粋でいられるの?」

「純粋ではありません。役目を果たすだけです」

「それが純粋だというのよ」

 美雨はため息を零した。

 どうあがいても香月のように考えられなかった。

「四夫人なんて立場を与えられただけの結界を維持するための生贄よ。私たちは籠の中の鳥なのよ」

 美雨は貴妃だ。

 四夫人の中でもっとも位が高い。

 それに満足をするような女性ではなかった。

「自由に生きようとすれば、恨まれるだけの場所に連れて来られたことを恨まなかった日はないわ」

 美雨は法術を使える道士だ。しかし、宝貝を手にすることは叶わなかった。それだけで青家の当主候補の座を外され、守護結界を維持する為だけの貴妃に選ばれた。

 それは屈辱だった。

「愛しても報われはしない。後宮の籠の中に押し込められて、恨みたくなる気持ちもわかってしまうのよ」

 美雨は皇帝を慕っている。しかし、その愛が報われないと知っている。
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