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第三話 賢妃の才能は底知れない
02-8.
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「姉上は成仏をしておりません。未練を残し、彷徨うこともできず、その場に残されているはずなのです」
「なぜ、そう思う?」
「姉上は母親思いの方でした。母親の立場を良くする為だけに後宮入りをしたのです。だからこそ、死を受け入れられるはずがないのです」
香月は翠蘭の母、楊林杏のことを知っている。
今にも倒壊しそうな物置小屋に住まわされ、翠蘭と二人だけで生きていた林杏は翠蘭が後宮入りした直後に本邸に住まいを移された。それは翠蘭がよけいなことを口にせず、思い通りに動くようにする為の人質だった。
翠蘭がいたからこそ、林杏の居場所があった。
翠蘭亡き後は、既に玄家にいないかもしれない。
「姉上の未練を強制的に断ち切ります。そうすれば、お母上の元にいけるでしょう」
「できるのか? そのようなことが」
「宝貝の力を借りれば可能でしょう。試したことはありませんが、姉上が悪霊の餌と化すよりはよいかと思います」
香月は答えた。
それが最善の策だった。
「……わかった」
俊熙は立ち上がる。
「すぐに案内しよう。ついてくるとよい」
俊熙も翠蘭に対し、思うことがあったのだろう。
香月の言葉を信用しているわけではない。俊熙にとって視えない怨霊は脅威ではなく、目に見えて敵視してくる官僚やいつ裏切るかわからない側近たちの方が脅威であった。
それならば、好いた女の願いだけは叶えてやりたかった。
「ありがとうございます。陛下」
香月は素直に礼を口にする。
俊熙の考えをすべて理解しているわけではない。ただ、儀式の場である神聖な場所に連れて行ってもらえるとは思っていなかったのだ。
* * *
玄翠蘭は孤独な女性であった。
母と娘の二人暮らしは困窮極まり、頭を下げて、必死に縋り付いて玄家での雑用仕事を手に入れ、その代わりに与えられる粗末な食事だけで生き抜いてきた。翠蘭が苦労をしたのは母のせいでもあった。気功や武功に恵まれない母に似てしまったからこそ、翠蘭は玄家の人間として認められなかったのだ。
「なぜ、そう思う?」
「姉上は母親思いの方でした。母親の立場を良くする為だけに後宮入りをしたのです。だからこそ、死を受け入れられるはずがないのです」
香月は翠蘭の母、楊林杏のことを知っている。
今にも倒壊しそうな物置小屋に住まわされ、翠蘭と二人だけで生きていた林杏は翠蘭が後宮入りした直後に本邸に住まいを移された。それは翠蘭がよけいなことを口にせず、思い通りに動くようにする為の人質だった。
翠蘭がいたからこそ、林杏の居場所があった。
翠蘭亡き後は、既に玄家にいないかもしれない。
「姉上の未練を強制的に断ち切ります。そうすれば、お母上の元にいけるでしょう」
「できるのか? そのようなことが」
「宝貝の力を借りれば可能でしょう。試したことはありませんが、姉上が悪霊の餌と化すよりはよいかと思います」
香月は答えた。
それが最善の策だった。
「……わかった」
俊熙は立ち上がる。
「すぐに案内しよう。ついてくるとよい」
俊熙も翠蘭に対し、思うことがあったのだろう。
香月の言葉を信用しているわけではない。俊熙にとって視えない怨霊は脅威ではなく、目に見えて敵視してくる官僚やいつ裏切るかわからない側近たちの方が脅威であった。
それならば、好いた女の願いだけは叶えてやりたかった。
「ありがとうございます。陛下」
香月は素直に礼を口にする。
俊熙の考えをすべて理解しているわけではない。ただ、儀式の場である神聖な場所に連れて行ってもらえるとは思っていなかったのだ。
* * *
玄翠蘭は孤独な女性であった。
母と娘の二人暮らしは困窮極まり、頭を下げて、必死に縋り付いて玄家での雑用仕事を手に入れ、その代わりに与えられる粗末な食事だけで生き抜いてきた。翠蘭が苦労をしたのは母のせいでもあった。気功や武功に恵まれない母に似てしまったからこそ、翠蘭は玄家の人間として認められなかったのだ。
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