後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第三話 賢妃の才能は底知れない

02-4.

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「元々は馮充媛の下女だった。その際に酷い仕打ちを受けている」

「そうですか。それが噂の召し上げた理由でしょうか?」

「そうだ。後宮の噂と事実はかなり異なるが、酷い仕打ちから手を引かせる為のものだった」

 俊熙の行為は意味があった。

 しかし、それは藍洙の思い込みを激しくさせた。窮地を救ってくれた英雄に恋をする村娘のように、届きもしない手を必死になって伸ばし続けた。

 それを利用されても、もう一度、会いたいだけだった。

 理由は単純だ。愛していたから会いたかった。その単純な気持ちは次第に人を殺める呪術に染められ、呪いへと変わってしまった。

 黄藍洙を知れば知るほどに同情してしまう。

 彼女を支える者がいれば、結末は変わっただろう。

「馮充媛を恨んでおいででしたか。首に執着をしたのはなぜでしょう」

「そこまではわからないな。そもそも、怨霊の行為に意味などあるのか?」

「ございます。怨霊は人の成れの果て、最後の行動は未練を果たす為のものなのです。それさえも忘れてしまえば悪霊と化してしまい、無差別に人を襲うようになります」

 香月の言葉を聞き、俊熙は考える。

「大前提として違うかもしれないな」

 俊熙は怨霊を視えない。

 だからこそ、理性的に考えられる。視えない、触れられないものに恐怖を抱く必要性がないからだ。

「馮充媛を襲ったのは黄藍洙なのか?」

 俊熙の言葉に香月は目を見開いた。

「侍女に呪術に優れている者がいただろう。それも怨霊となっている可能性は否定できないか?」

 俊熙は調査結果を聞かされている。

 ……柳陽紗。

 昭媛宮の侍女頭である陽紗の遺体は、藍洙と同様に黒く醜い姿に変わっていた。墨のような灰に変り果てた姿は、彼女が呪術を使っていたことを意味している。

 後日の調査の結果、燃えた人形に書かれていた字と陽紗の字が一致しており、藍洙を含めた昭媛宮の侍女たちを呪術で殺めたのは、陽紗であると結論付けられた。

 そこまで呪術に長けているのならば、未練を残せば怨霊にもなるだろう。
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