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第三話 賢妃の才能は底知れない

01-4.

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 法術の才能に恵まれ、養子縁組をされた梓睿は香月が後宮入りを果たす際に名を奪われた。香月の男装時の偽名として名を使われた義弟は、玄家の居場所を奪われたことだろう。

 ……父上も非道なことをする。

 おそらく、送り込まれる宦官の一人は梓睿だろう。

 ……せめて、居場所を作れてやれたらいいが……。

 宦官に対し、良い感情は抱けない。後宮においても宦官の地位は低い。それを覆すことはできない。香月はその状況において、義弟の居場所を作ることができないか、考えるしかなかった。

 ……難しいだろう。

 後宮は女の園である。そこには宦官の居場所はない。

「梓晴、明明。歓迎の準備を怠らないように。玄武宮の宦官は罪人ではないと噂を流しておけ」

 香月は指示を出す。

 それに対し、各々返事をした梓晴と明明は玄武宮を立ち去る。密偵を兼ねている二人は他妃に仕える侍女たちと交流をとっている。その為、噂は簡単に塗り替えられるだろう。

 ……そこまでする理由がわからない。 

 香月は考え込む。

 ……雲嵐。

 木犀の花の香を思い出させる淡い恋心は、玄家に置いてきた。後宮に入る時に捨てなければいけないものだった。

 ……会いたいよ。

 胸が締め付けられる。

 淡い恋心を思い出すわけにはいかない。

 香月は玄武宮の中庭に植えられた木犀の木に視線を向けた。花の咲かない季節でも木犀の木は存在感を放っていた。

 ……しっかりしなければ。

 あの頃には戻れない。

 香月は気をそらすように返信用の紙と筆を手に取った。


* * *


 翌日、玄家からの贈り物と称して宦官二人が玄武宮に送られてきた。

 様々な荷物を抱えて走らされたのだろう。

 あまりにも早い到着に、香月は頭が痛くなりそうだった。まだ心の準備ができていなかったのだ。
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