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第二話 玄武宮の賢妃は動じない

05-14.

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「まさか、後宮の輪を乱す道士だったとは。信じられない」

 俊熙は信じられない言葉を聞いてしまったかのようだった。

 ……は?

 香月は俊熙の言葉こそが信じられなかった。

 道士とは仙術や法術の使い手であり、内功を扱う為の厳しい修練を積み重ねた者たちのことを示す。仙術や法術は使わず、内功を練り上げ戦う為に特化した武功を同時に習得していることも多く、道士の目指す頂は仙人になることであるとされている。

 香月もその一人だ。

 だからこそ、藍洙は道士ではないとわかっていた。

「陛下。ご忠言をいたしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ。好きにしろ。それから、許可もとらなくていい」

「ではお言葉に甘えさせていただきます」

 香月は視線を空に向ける。

 空は割れたままだ。後宮に出向くと決まった日よりも亀裂は酷くなりつつあり、早急に手を打たなければ李帝国の守護結界は意味をなさなくなるだろう。

「大前提としまして、推測でしかありません。しかし、呪術の証拠は昭媛宮で見つかることでしょう」

 香月は確信を得ていない。

 藍洙の自白を聞き終わる前に捕らえられてしまったからだ。

「黄藍洙は道士ではありません」

「では、なんだと申す?」

「呪術師に利用されただけの被害者です。その呪術師も、おそらくは別の場所にいる道士に利用されている駒でしょう」

 香月は推測を語る。

 呪術に手を染めた者の特有の症状が藍洙には表れていた。あれらの症状は呪術を学び、その術を習得した呪術師ならば、禊を行えば取り除ける穢れが蓄積したものだ。

 だからこそ、藍洙には呪術の心得がないとすぐにわかった。

「呪術師と道士はなにが違う? 俺には同じに思えるが」

 俊熙の質問に対し、香月は表情を一つも変えずに視線を俊熙に向ける。

 ……この方は皇帝に向いていないのだろう。

 李帝国は守護結界により強力な加護を得ている国だ。その力の源は李家に流れる瑞獣、麒麟によるものだ。

 代々の皇帝は道士でもあった。

 すべては偉大なる麒麟の力を己の者にする為の術を得る為であった。
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