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第二話 玄武宮の賢妃は動じない
04-12.
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……かわいそうなことをした。
香月は小鈴の姿に春鈴が重なって見えた。春鈴が生きていたのならば、小鈴と同じ年頃になっていただろう。
だからこそ、同情をするわけにはいかなかった。
「文の灰は黄昭媛に被せてやれ」
「かしこまりました。呪いの言葉でも浴びせましょうか?」
「必要ない。知識のない者は好き勝手に解釈をして騒ぎ出すものだろう。それを利用し、道士の居場所を炙り出す」
香月は止まっていた足を動かし、早々と自室に向かう。
……すべては黄昭媛の望みである、か。
小鈴の顔を覆うように張られていた紙には、藍洙の関与を認める言葉が書かれていた。
わざわざ、犯人の名を知らせる必要はないのにもかかわらず、小鈴の体に張り付けられていた文にも同様の内容が書かれ、犯行の供述をするかのように翠蘭に対する恨み言葉が綴られていた。
その為、香月は目を通す価値はないと判断したのだ。
万が一、法術や呪術の類が紛れ込んでいてはいけない為、賢妃である香月が読む前に侍女の誰かが内容の確認をする。
後宮に個人の空間はなく、個人の意思を尊重する文化も存在しない。
侍女は主人に忠誠を誓う。しかし、主人の自由を保障するわけではない。
「賢妃様。湯浴みの準備が整っております」
雲婷は香月に声をかける。
早々に話が終わるだろうと判断し、雲婷は湯浴みの準備の指示を出してあったのだろう。
「従者の咎は主人の魂を蝕むものでしょう。清めの儀式の代わりとまではいきませんが、多少でも効果はあるものかと思います」
雲婷は玄家の風習を知っている。
法術を使えば気の流れに乱れが生じる為、その乱れを落ち着かせるのには瞑想を行うのが一般的である。しかし、呪術は恨み妬みの負の感情を利用する為、失敗をすれば魂が傷つくとされている。
効果を発揮できない失敗作とはいえ、蟲毒は呪術だ。
多少は玄武宮に影響を与えていたとしてもおかしくはない。
「そうだな。呪術の毒は体に残さないのに限る」
香月は雲婷の提案を受け入れた。
雲一つとして浮かばない綺麗な夜空の下、後宮はどす黒いものに覆われている。それは数日では解決できそうもない巨大な陰謀によるものだった。
香月は小鈴の姿に春鈴が重なって見えた。春鈴が生きていたのならば、小鈴と同じ年頃になっていただろう。
だからこそ、同情をするわけにはいかなかった。
「文の灰は黄昭媛に被せてやれ」
「かしこまりました。呪いの言葉でも浴びせましょうか?」
「必要ない。知識のない者は好き勝手に解釈をして騒ぎ出すものだろう。それを利用し、道士の居場所を炙り出す」
香月は止まっていた足を動かし、早々と自室に向かう。
……すべては黄昭媛の望みである、か。
小鈴の顔を覆うように張られていた紙には、藍洙の関与を認める言葉が書かれていた。
わざわざ、犯人の名を知らせる必要はないのにもかかわらず、小鈴の体に張り付けられていた文にも同様の内容が書かれ、犯行の供述をするかのように翠蘭に対する恨み言葉が綴られていた。
その為、香月は目を通す価値はないと判断したのだ。
万が一、法術や呪術の類が紛れ込んでいてはいけない為、賢妃である香月が読む前に侍女の誰かが内容の確認をする。
後宮に個人の空間はなく、個人の意思を尊重する文化も存在しない。
侍女は主人に忠誠を誓う。しかし、主人の自由を保障するわけではない。
「賢妃様。湯浴みの準備が整っております」
雲婷は香月に声をかける。
早々に話が終わるだろうと判断し、雲婷は湯浴みの準備の指示を出してあったのだろう。
「従者の咎は主人の魂を蝕むものでしょう。清めの儀式の代わりとまではいきませんが、多少でも効果はあるものかと思います」
雲婷は玄家の風習を知っている。
法術を使えば気の流れに乱れが生じる為、その乱れを落ち着かせるのには瞑想を行うのが一般的である。しかし、呪術は恨み妬みの負の感情を利用する為、失敗をすれば魂が傷つくとされている。
効果を発揮できない失敗作とはいえ、蟲毒は呪術だ。
多少は玄武宮に影響を与えていたとしてもおかしくはない。
「そうだな。呪術の毒は体に残さないのに限る」
香月は雲婷の提案を受け入れた。
雲一つとして浮かばない綺麗な夜空の下、後宮はどす黒いものに覆われている。それは数日では解決できそうもない巨大な陰謀によるものだった。
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