25 / 153
第二話 玄武宮の賢妃は動じない
02-2.
しおりを挟む
「皇帝陛下がお越しになられました」
皇帝、李 俊熙に付き添っている宦官の簡易的な挨拶の声がした。
その声に従い、寝室の扉が開けられる。香月の意思を確認することはない。
俊熙が訪ねてきたのだ。決定権はすべて皇帝が持っている。
「陛下。ご厚意に感謝いたします」
香月は最敬礼をする。
四夫人の一角とはいえ、後宮の所有者は皇帝である。最大限の礼を尽くすのが当然の振る舞いだった。
「挨拶はいらん。さっさと座れ。それから、賢妃以外の者はすべて退席しろ」
俊熙は慣れたように指示をだす。
それに歯向かう者など誰もいない。雲婷たちも例外ではない。
香月に対し、心配そうな視線を向けつつも、皇帝の反感を買わないように速やかに退室した。
香月以外はすべて寝室の外に出たことを確認し、俊熙は当然のように木製の台座に触り心地のこだわった絹で作られた寝具に座る。
……本気で夜伽に来たわけではないだろうな。
座る場所などいくつも用意されている。
香月は皇帝が座っている寝具の近くに用意しておいた椅子に座った。その様子を皇帝は無言で見つめていた。様子を伺っているだけなのか、それとも、香月の真意を見極めようとしているのかもしれない。
「翠蘭と似ていないな」
俊熙の言葉に対し、香月は軽く頭を下げた。
表情を見られるわけにはいかなかったからだ。
「はい。陛下。翠蘭姉上とは母親が違いますので、姉妹とはいえ、あまり似てはおりません」
香月は速やかに返事をした。
しかし、その答えが正しかったのか、わからない。
……翠蘭姉上は寵愛を受けていないはずではなかったのか?
事前に得ていた情報と違う。
翠蘭は後宮入りをした際の挨拶で酷い失態をした。その夜には俊熙が玄武宮を訪ねて来たものの、夜伽は行われず、十分程度の会話をしただけだと伝わっている。
……交流だけはあったのか?
その真偽を確かめる術はない。
しかし、それ以降、玄武宮に俊熙が足を運ぶことがなかったのは事実だ。
皇帝、李 俊熙に付き添っている宦官の簡易的な挨拶の声がした。
その声に従い、寝室の扉が開けられる。香月の意思を確認することはない。
俊熙が訪ねてきたのだ。決定権はすべて皇帝が持っている。
「陛下。ご厚意に感謝いたします」
香月は最敬礼をする。
四夫人の一角とはいえ、後宮の所有者は皇帝である。最大限の礼を尽くすのが当然の振る舞いだった。
「挨拶はいらん。さっさと座れ。それから、賢妃以外の者はすべて退席しろ」
俊熙は慣れたように指示をだす。
それに歯向かう者など誰もいない。雲婷たちも例外ではない。
香月に対し、心配そうな視線を向けつつも、皇帝の反感を買わないように速やかに退室した。
香月以外はすべて寝室の外に出たことを確認し、俊熙は当然のように木製の台座に触り心地のこだわった絹で作られた寝具に座る。
……本気で夜伽に来たわけではないだろうな。
座る場所などいくつも用意されている。
香月は皇帝が座っている寝具の近くに用意しておいた椅子に座った。その様子を皇帝は無言で見つめていた。様子を伺っているだけなのか、それとも、香月の真意を見極めようとしているのかもしれない。
「翠蘭と似ていないな」
俊熙の言葉に対し、香月は軽く頭を下げた。
表情を見られるわけにはいかなかったからだ。
「はい。陛下。翠蘭姉上とは母親が違いますので、姉妹とはいえ、あまり似てはおりません」
香月は速やかに返事をした。
しかし、その答えが正しかったのか、わからない。
……翠蘭姉上は寵愛を受けていないはずではなかったのか?
事前に得ていた情報と違う。
翠蘭は後宮入りをした際の挨拶で酷い失態をした。その夜には俊熙が玄武宮を訪ねて来たものの、夜伽は行われず、十分程度の会話をしただけだと伝わっている。
……交流だけはあったのか?
その真偽を確かめる術はない。
しかし、それ以降、玄武宮に俊熙が足を運ぶことがなかったのは事実だ。
1
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~
山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝
大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する!
「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」
今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。
苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。
守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。
そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。
ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。
「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」
「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」
3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる