上 下
10 / 107
第一話 玄翠蘭が死んだ

02-3.

しおりを挟む

 女である香月が玄家の次期当主として生きられるのは、浩然の指名によるものだ。

 次期当主になるのには性別は関係ない。

 もっとも優れている玄家の直系が継ぐべきである。

 浩然の時代の流れや世間の目を気にしない考え方は、玄家の中でも異質だ。しかし、それは時間をかけてゆっくりと浸透していき、今では香月こそが次期当主にふさわしいのだと誰もが考えるようになっていた。

「香月。父はお前に新たな修練を課さねばならない」

 浩然は悩みに悩んだ結果、玄家の為を思い、断腸の思いで決断を下した。

「はい。父上。父上の望み通り、修練を乗り越えてみせましょう」

 香月は迷わずに返事をした。

 浩然の言葉に疑いを持たない。浩然の悩みの種を取り除くのは、優れた者の役目であり、それに選ばれたのは誇らしいことだった。

「後宮の裏に潜む鼠の狙いは皇帝陛下の首だ」

 それは玄家の人間を使い、調べ上げたことなのだろうか。

 それとも、玄浩然を信用している皇帝直々に伝えられたことなのか。

 ……翠蘭姉上はその鼠に齧られたのか。

 鼠と呼ばれるのは皇帝に反乱の意を抱いている臣下の者だ。

 後宮妃の中に家の方針に従い、皇帝を殺めようとしたところを翠嵐が目撃をしてしまったのか。それとも、李帝国の守護神である結界の力を弱める為、翠蘭の命が狙われたのだろうか。

 どちらにしても、穏やかではない。

 不穏な気配が立ち込める中、浩然は判断を迫られていた。

「玄香月」

 浩然はその名を胸に刻むように香月を呼んだ。

 最愛の娘に告げたくもない言葉を言わなくてはならない。それを堪える父親の顔をしていた。

「大恩ある先代の御子を守れ」

 浩然の言葉に対し、香月は頭を下げた。

「はい。父上。私にお任せください」

 香月は反論をしない。

 浩然の命令は絶対だ。それに逆らう選択肢は香月に存在しなかった。

「……香月をくれてやるつもりなど、私にはなかったんだがな」

 浩然はため息を零す。

 玄家の直系の中には、香月に力は及ばないものの、それなりに気功を操ることができる女性がいる。玥瑶の次女でもよかったはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

処理中です...