人生二度目の悪役令息は、ヤンデレ義弟に執着されて逃げられない

第０話 悪役侯爵は逆行し、悪役令息に戻る

０２－１７．

「その代わり、見返りをください」

　嫌な予感がする。

　俺の手を撫ぜ回す指の動きが気持ち悪い。

　肌を撫ぜられているだけなのに、なぜ、こんなにもくすぐったいのか。

　俺よりも鍛えられていないくせに。

　それなのに、女性の手とはまったく違う。

「……なにがほしい？」

　ノエルのことだ。

　ろくでもないことを言い出すのに決まっている。

　聞き返すだけ無駄になる。

　ノエルの異常な執着を考えれば、被害にあうのは、俺だ。

「義兄上がほしいです」

　的中した。

　俺の所有物を強請られるのならば、なんとでもしてやった。

　物を与えるだけで済むのならば、それに越したことはない。

　疎ましくて、鬱陶しくて、暑っ苦しい執着を向けられるのも慣れている。

　あの頃はそれが嫌で仕方がなかったが、二度目の人生でも変わらないものがあると思えば、不思議なことに安心さえもしてしまう。

　ノエルは変わらない。

　ノエルは俺に執着し続けている。

　それだけが、一度目の人生から変わらない唯一のことな気がして仕方がない。

「義兄上のすべてを僕にください。義兄上とエッチなことをしたいですし、義兄上が僕の下で乱れて可愛い顔をして強請るのもずっと見ていたいです」

　質の悪い冗談だったのならば、どれほどに良かっただろうか。

　それなりに鍛えている俺なんかを性的な目で見れるのは、ノエルくらいだろう。それ以上に増えられても嫌だが。

「僕だけの義兄上になってください。その代わり、僕のすべてを義兄上に差し上げます」

　酷い口説き文句だ。

　執着にまみれた言葉に頷くような女性はいないだろう。


「……知っているだろ」

　誰にも言ったことはない。

　でも、ノエルならば調べ上げていることだろう。

「俺は誰かを好きになったことがない」

　貴族は腹の中で何を企んでいるのか、わからない。

　特定の相手を無条件で愛するなど、俺には理解ができなかった。