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第0話 悪役侯爵は逆行し、悪役令息に戻る

01-2.

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「義兄上。僕だけはずっと貴方の傍にいられるのです」

 まるで、それが正しいかのように言う声が嫌いだ。

 同情しているかのような声が嫌いだ。

 他の方法があったのではないかと諭してきそうな声が嫌いだ。

 なにもかも、俺とは違う。

 受け入れてしまえば、なにもかも、狂っていく気がして恐ろしい。

「こんなことになるなんて残念ですよ。義兄上。どうして、僕の元から離れて行ってしまったのですか?」

「チッ。俺の家から追い出して何が悪いというんだ」

「なにも悪くはありませんよ。ただ、僕を追い出すのならば、義兄上も一緒に出ていかないとおかしいじゃないですか」

 おかしいのはお前だろう。

 俺は侯爵家の人間だ。

 酒に溺れて死んでいった父上のせいで、多額の借金を背負うことになっても、俺が貴族であることにはなにもかわらない。

 名誉を汚され、侯爵位を手放すべきだと平民どもが好き勝手に騒いでも、俺はそれを受け入れるつもりはなかった。

 俺は貴族だ。侯爵だ。

 それを手放した先にはなにもない。

 俺には生まれ持った身分を手放す選択肢はなかった。

「義兄上」

 ノエルの声が気持ち悪い。

「僕の義兄上」

 どうせ、本当に義兄だと思っているわけではない。

「僕だけの義兄上でしょう?」

 感情の籠っていない声で呼ばれても気味が悪いだけだ。

「僕と一緒にやり直しましょう」

 やり直したい相手に剣を向けるか?

「大丈夫ですよ。義兄上。なにも恐れることはありません。僕も魔法を使うことはできます。貴族としての立ち振る舞いも完璧にしました。だから、僕と二人だけで侯爵家を立ち直しましょうよ」

 ノエルは貴族の血を持たない。だから、精霊の加護もない。

 それなのに魔法を使えるなんておかしい話だ。

 常識が通じない。

 そんな奴に家督を継がせようとした父上は、頭がおかしくなって死んでしまった。

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