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第一話 異母妹は悪役令嬢である

05-15.

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 稼げる時間を引き延ばすことよりも、アイザックが生き延びる可能性に賭けた。

 それをアイザックが知るようなことがないように願うだけだ。

「誰もそんなことを望んでいねえよ」

「敵兵を薙ぎ払えと命じたのは皇太子殿下だ。お前だってその場にいただろう。私の命を懸ける価値のある役目だ。こればかりはお前にも否定はさせないよ」

 アイザックは顔を歪めている。

 私の言葉には間違いがないのは分かっているからだろう。

「アイザックは生きろ」

 緊急事態に陥った場合は命を懸けて時間を稼ぐようにと皇太子殿下は命じた。

 その代わり、私の死後、国家反逆罪を犯した異母妹の罪を軽減させる約束を果たすと言われてしまえば、なにも言えなくなるのは当たり前だろう。

「私が好きだったバカみたいな笑顔で生きろ」

 私は私の為だけにその役目を引き受け、皇国の為と大義名分のもとで命を散すのだ。

「これからの皇国を生き抜くんだ」

 それを知っているのにもかかわらず、一緒に行くと言い出したのは、アイザックなりの優しさだろう。

「私は先に逝くことにするが、お前はまだ来るべきではないよ」

 それを分かっているからこそ、彼の手を振り払う。

「むしろ、死に急ぐマーヴィンを引き留めることに専念して欲しいところだ」

 死への旅路は一人でいい。巻き添えはいらない。

 これは私の役目だ。

 死をもって皇国に尽くしてこその私の人生だ。

 それでよかったのだと思う。

「お前はお前の役目を果たせ。それでも、私と同じ結末ならば仕方がない。バカな奴だと笑って迎えてやろう」

 それはアイザックの枷となるだろう。

 遺言は人の命を食い止める力がある一方的な言葉だ。

「あぁ。そうだ」

 本当は言わないでおこうと思っていたことだった。

「私はお前のことが好きだったよ。きっと、初恋だった」

 言わないままで死んでいくつもりだった。

「さようならの時間だ」

 それは全ての遺言がそのような効果を持っているわけではないが、少なくとも、親しき者の遺言は心の中に居座り続ける。
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