転生した女公爵は婚約破棄された異母妹と暮らしたい。

第一話 異母妹は悪役令嬢である

０５－１０．

「傘を差しておけばよかったな」

　彼女は雨が嫌いだった。

　庭を歩くことを好んでいた彼女にとっては、退屈な室内に閉じ込められていた記憶がこびりついていたのかもしれない。

　恵みの雨だと知っていても好きにはなれなかったのだろう。

　不満を口にする彼女の姿を何度も見たことがある。

　二度と彼女の墓に花を手向けることはないだろう。

　それならば、雨が嫌いな彼女の墓が濡れることのないようにしてくればよかった。

　窓の外に視線を向ければ、青い眼が映る。

　二度と光を宿すことのない彼女の眼の色を忘れることができないのは、この色は私たちの共通点だからだろう。

　雨の日の窓は姿を映す鏡のようになる。外が暗いからだろう。

　だから私は雨の日が好きになった。

　アリアが傍にいるような錯覚に陥ることできるこの日だけは灰色な日々を耐えることができたから。


＊　＊　＊


　この戦いは皇国の負けだ。

　レイハイム帝国に挑んだ勝ち目のない開戦からまだ三か月しかたっていないというのにもかかわらず、皇国の被害が大きいのが証拠となるだろう。

　無謀な戦争に駆り出された騎士団団員の命は儚く散った。

　希望者だけで構成された臨時軍隊も壊滅寸前に追い込まれている。

　この戦争の目的を知ることもなく、命を落とした騎士たちも大勢いたことだろう。


「……アイザック。皇太子殿下の容態はどうだった」

「ある程度は回復なさったとのことだ。エイダ嬢の奇跡で意識は戻った。数日程度、安静にしてさえいれば戦場復帰も可能だとさ」

「そうか。それは良かった」

　目的としては聖女であるエイダと皇太子殿下の婚約を正当化することだろう。

　それだけの為に亜人や魔族たちの国、レイハイム帝国を敵に回す等ということは正常な状態ならばありえない話だ。

　それを王命として下した皇帝陛下はエイダに狂わされてしまっているのだろう。

　昔、本で読んだことがある。

　傾国の美女は魅了の魔法を使うらしい。

　エイダも似たようなものなのだろう。

　そして、正常な思考回路を奪われてしまったのに違いない。