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第一話 異母妹は悪役令嬢である

05-3.

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 その義務を果たそうとしたアリアは不敬罪の名の下に命を散らした。
 一度たりとも皇太子殿下の御身を危険に晒そうとしたことがないのは、異母姉である私が保証しよう。

「雨だわ」

 無慈悲にも亡骸を照らしていた太陽は薄黒い雲に覆い隠される。

 土の中に姿を隠した棺の傍から離れられない私たちを追い返すかのように、無慈悲に雨が降り注ぐ。

 今日のような青空の日は雨が降らないはずなのにおかしいこともあるものだ。

「私は中に戻ります。……公爵閣下もお風邪を引かれてはいけませんわ。一緒に戻りましょう」

「……なぜ?」

「お風邪を引かれてはいけませんから」

 義母の言葉を理解できなかった。

 なぜ、私の心配を始めたのだろうか。

「あの子もそれを望みません。今日はゆっくり休みましょう」

 アリアの願いなど知りもしない人が何を言っているのだろうか。

「公爵閣下。貴女が悲しむ必要はありませんよ」

 伸ばされた腕を振り払った。

 義母はそれを責めなかった。

 ヒステリックに叫んでいることが多かったとは思えない。

 人が変わったかのような態度が不気味だった。

「風邪を引かれる前に中に入ってくださいね」

 風邪を引いては困るとアリアを産んだ義母は一目散に屋敷の中に戻っていった。

 そういえば、義母はアリアの亡骸を気味悪いものを見るような眼を向けただけで涙を流すこともなかった。

 義母を追うように公爵代理人の座を私に奪われた父は屋敷に逃げ込んだ。

 彼はアリアの死を受け入れられずに涙を堪えきれていなかった。

 私に傘を差す執事のセバスチャンの眼からも涙が流れているというのに、非情な私の眼からは涙が零れ落ちることはない。

「……こういう時はどうすればいいのだ。セバスチャン」

 血のつながった娘に対して気味悪いものを見るような眼を向けた義母は、彼女のことを愛していなかったのだろうか。

 それならば義母は皇国で一番の舞台女優となれるだろう。

「悲しいのに、涙さえも流れてはくれない」

 父のように涙を流し続ければよかったのだろうか。
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