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第一話 異母妹は悪役令嬢である

03-9.

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「まあ、本当に? お姉様に嫌われていないのならば、幸せですわ」

「幸せとは呼べない場所でそれを口にするのか」

「ええ。お姉様は悲観的な考え方をなさいますのね? わたくし、最後は幸せな気持ちに包まれながら神様の元に旅立てるのですもの。お姉様に嫌われていないことだけがわたくしに残された幸せですわ」

 幼い頃を思い出す。

 閉ざされた世界にいることはつまらないのだと私の手を引っ張るあの子は、幸せそうに笑っていた。

 それを引き裂いた父も義母にも考えがあったのだろう。

 それをわかっていた。

 だからこそ、私は強引にアリアの手を掴むことができなかった。

「アリア」

 これが公開処刑を明日に控えた元令嬢の言葉だろうか。

 泣いてばかりだったあの子の姿だろうか。

 そんなの許して良いのだろうか。

 ――許す? 違う、許して良いはずがない。

 なにも悪いことをしていないではないか。

 それなのに処刑されるなどというのはおかしい話である。

 こんなことが許されていいはずがないんだ。

「私は公爵だ。罪人を逃しても、言い逃れができる」

 娯楽小説ではないのだ。

 アリアは今を生きている。

「だから、お願いだ。願ってくれ。言葉にしてくれ」

 それならば、なぜ、助けてやれない。

 なぜ、この身体は動かない。

 なぜ、生きてほしいと。一緒に生きようと、その言葉が言えない。

 声にならない。その言葉を声に出せないのだ。

「それが、本当に、お前の最後の言葉でいいのか?」

 もしも、この場から連れ出してほしいと願えばそれを叶えるだろう。

 皇族侮辱罪を撤回させる力はない。

 公開処刑を回避する為に奮闘したものの、結局変えることができたのは処刑後の恥を晒すことを回避することだけだった。

 スプリングフィールド公爵家のなにを使ってもそれ以上は変えられない。

 それならば、公爵の地位を廃してでも連れ出すべきではないのか。

 くだらない逃亡劇だと後ろ指を指されても、騎士団を追っ手に放たれても逃げることはできるだろう。
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