転生した女公爵は婚約破棄された異母妹と暮らしたい。

佐倉海斗

文字の大きさ
上 下
15 / 60
第一話 異母妹は悪役令嬢である

02-6.

しおりを挟む
「わたくしはなにもしておりませんわ! どうか、信じてくださいませっ」

「その口を閉じろ。皇太子殿下の御前だ!」

「触らないでくださいませ! わたくしはスプリングフィールド公爵家の娘ですわ!」

 抵抗をしている声は必死だった。

 その声に応えなければならない。

 わかっているのに身体が動かない。声が出ない。

「お姉様!!」

 義母の都合の良い人形となったあの子は嫌いだった。

 あの子の義母と同じ黒髪が憎いと思った。

 父譲りの私と同じ青色の眼は少しだけ好きだった。

 泣いている姿が嫌いだった。

 笑っている姿を私の前で見せることは許されなかった。

 義母の言いつけを守るあの子が大嫌いだった。

 あの子は、亡き母を貶めたあの女の子どもだ。

 あの子は、亡き母を裏切ったあの男の子どもだ。

「……皇太子殿下。発言をお許しいただけますか?」

「いいだろう。言ってみろ」

「ありがとうございます」

 それならば、少しくらいは痛い目に遭うべきだ。

 そうすれば、命だけは救われるのだから。

「アリア・スプリングフィールドはこの場を持ってその身分を剝奪します。後ほど、正式な書類を皇帝陛下に提出させていただくとしましょう」

 これは結果としてあの子の為になる。

「皇太子殿下の婚約者として相応しくないのならば、元公爵代理の娘を保護する必要性は感じられません」

「はっ、正しい判断だな」

 公爵令嬢の身分がなくなれば、公開処刑はされないだろう。

 元より公開処刑される重罪を犯していないのだ。それならば、身分剥奪により市民階級に叩き落とされたというだけで世間は同情することだろう。

 アリアが死なずにすむのならば、それでいいではないか。

 世間が静まった頃、父と義母の元にでも送り届け、静かに暮らしていてもいいだろう。それでも世間の目が厳しいのならば、私が匿い続ければいい。

 これは、アリアを守る為になるのだ。

 アリアを救わなくてはいけない。アリアは死んではいけない。

 そう思っているのに、どうして、身体が思うように動いてくれないんだ。

「貴女はこの場をもってスプリングフィールド公爵令嬢ではなく、ただのアリアだ。市民階級の者として皇族へ敬意を忘れずに生きるといい。……それで構いませんか、皇太子殿下」

「そうだな。良いだろう。この女を地下牢へ連れて行け」

 相変わらず、皇太子殿下の腕に纏わりついているエイダ嬢の頭を撫でながら、皇太子殿下は従者に告げた。

 身分剝奪は想定外だったのだろうか、あの子は涙を流しながら従者に連れられて行った。その後は何事もなかったかのように祝宴が再開されたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。

ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」 ──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。 「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」 婚約者にそう言われたフェリシアは── (え、絶対嫌なんですけど……?) その瞬間、前世の記憶を思い出した。 彼女は五日間、部屋に籠った。 そして、出した答えは、【婚約解消】。 やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。 なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。 フェリシアの第二の人生が始まる。 ☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」 ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。 社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。 そんな彼がある日、突然異世界に転生した。 ――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。 目覚めた先は、王都のスラム街。 財布なし、金なし、スキルなし。 詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。 「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」 試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。 経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。 しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、 王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。 「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」 国王に乞われ、王国財務顧問に就任。 貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、 そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。 ――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。 異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

処理中です...