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第一話 異母妹は悪役令嬢である
02-3.
しおりを挟む今後、引き起こされることへの言い訳をするのならば、私はこの場においてもなにも知らなかったのだ。
「ど、どうしてですの? ローレンス様!」
会場中に響き渡りそうな甲高い声が聞こえる。
「ローレンス様!」
声の主は、今にも泣きだしそうな顔をしたアリアだった。
私同様、アリアも知らなかったのだろう。いや、知っていたのならばこの場に足を運ばないような臆病な子である。
学院では散々な失態を犯し、まるで娯楽小説に出てくる悪役令嬢のようだと比喩されたこともあった。
それはアリアの生まれを知っているからこその嫌味だ。
公爵代理人を任せられた平民出身の父とその愛人である義母の娘だ。公爵家の血は流れていない。それどころか、貴族の血は一滴も持ち合わせていない。
公爵家の令嬢とは名ばかりの存在だった。
社交界では味方はいない。私の陰に隠れていることさえもできない日は苦痛だったことだろう。
「わたくし、婚約を破棄されるようなことはなにもしておりませんわ!」
それを隠れて泣いている子だった。
あの子は他人を苛めて喜ぶような子ではない。
娯楽小説の悪役令嬢のように我が儘な気質であることは否定できないものの、それは公爵令嬢として当然の主張をしているととっても問題はないものだった。
生徒間の問題は生徒同士で解決することが求められている学院において、立場や与えられた身分を理解しない者への制裁も牽制も公爵家の者がするのが暗黙の了解となっている。
立場を弁えない行いをした同級生に対して私がしていた行為と同じようなものである。それは上級貴族の義務だった。
「このような一方的なことは許されることではありませんわ。ローレンス様、お考え直してくださいませ」
勇気を振り絞ったのだろう。
この場に来ているものの、なにも役に立ちはしない父と義母の前で恥をかくわけにはいかないと、必死になっているのだろう。
既にあの子が恐れている権力を父が振るうこともできないことを、あの子は知らないのだ。私が父から公爵位を奪い取ったのは昨日であり、この祝宴が終わった後にでも教えようと思っていたのが災いしたのだろう。
あの子は見ているのが恥ずかしいと思うくらいに皇太子殿下に必死に縋り付いていた。
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