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第一話 異母妹は悪役令嬢である

01-9.

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「お嬢様……」

「泣くな、ロイ。お前に泣かれてしまうと困ってしまうだろう?」

「申し訳ございません。歳のせいか、涙脆くなってしまいまして」

 知っている。

 それを拭うこともできないのは、泣かせている原因を取り除くことができないとわかっているからだ。

「知っているよ。私が公爵の地位を継ぐと宣言した時も泣いていたな」

「ええ、ええ、泣いておりました。あれは先代公爵閣下の亡くなられた三日後のことでした。泣くこともしないお嬢様の代わりに何度も泣いてまいりましたが、これほどに涙を流したことはないでしょう」

 公爵として参戦を決めたのは私だ。

 身内の反対を押し切り、真っ先に参戦すると告げたのだ。

 死に場所を求めていると非難されようとも止まれなかった。

「この老いぼれがお嬢様の代わりに戦場に行くことができますれば……」

「バカなことを言わないでくれよ。おじいさまが困るだろう?」

「先々代公爵閣下も同様のことを口にされることでしょう。お嬢様、どうか、考え直してくださいませんか? せめて、先々代の到着をお待ちになってはいただけませんか?」

「それは出来ないよ。あの人たちを泣き止ませるのは至難の業だからね」

 祖父母は反対をするだろう。

 今からでも不参加を告げるべきだと何度も手紙に書かれていた。

「私は行かなければならない」

 スプリングフィールド公爵として領民に求められているのは勝利だ。

 勝ち目のない戦いでも名を遺すことができるだろう。

「笑顔で見送ってくれないか? これはスプリングフィールド公爵家の名誉となるのだから。悲しむのは間違っているんだ。わかってくれるだろう?」

「はい、お嬢様。分かっております。これは名誉のあることなのです。公爵家の歴史に堂々と名を飾られることになるでしょう」

 ロイは多忙な祖父に代わり、祖父のような存在だった。

 私に関心のない父や嫌がらせをするしか能がない義母よりも、私を愛してくれた人だった。だからこそ、領地暮らしをしていた祖父母を任せられるのだから。

「アドルフのことを任せたよ」

「お任せくださいませ。公爵閣下。貴女の後継ぎとして相応しいお方に育てあげてみせます」

 ロイとたわいのない会話を交わした後、私は荷物の積まれている馬車に乗り込む。屋敷の前には使用人たちが並び、皆、私の言いつけ通りに笑顔を浮かべてくれていた。

 その眼には涙が浮かんでいるのを見て見ぬふりをして、私は、屋敷を発った。
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