狐塚町にはあやかしが住んでいる

第１話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

０７－１９．

「どうしてお前が生きているの!!」

　弥生は牙を剝き出しにして、叫ぶ。

　地面を蹴り上げ、春博の背後に隠れている香織に対して飛び掛かる。

「くそっ」

　春博は状況を理解していなかった。

　しかし、弥生の標的が香織であることはわかったのだろう。

「香織！」

　刀を鞘にしまう。

　そして、背後で震えている香織の腕を掴み、強引に抱き上げて、その場を離れる。

「許さない」

　先ほどまで春博たちがいた場所に両腕を振り下ろした弥生は、すぐに姿勢を整え、目を見開いた。

「え、あ、あ、あの」

「舌を噛むだけだ。黙っていろ」

　今にも気絶しそうなほどに顔を赤くした香織に視線を向けることもせず、春博は姿勢を整える。

「ハル、香織。お前たちで祠を封じ直せ」

　旭がゆっくりと笑みを浮かべた。

　それから懐から取り出した扇の先を弥生に向け、狐火を飛ばす。

「俺は弥生の相手でもしよう」

「バカにしてるのけ？　それを抱えてなにができる」

「片手があれば十分だろう？」

　旭に挑発され、弥生は標的を香織から旭に移した。

　地面を蹴り飛ばし、旭に飛び掛かった弥生の着物に狐火が触れる。そのまま、狐火は大きくなり燃え続ける。

「どうした。弥生。その程度で負けるのかい？」

　旭は退屈だと言わんばかりに笑った。

（足手まといになっているだけではないか！）

　旭は美弥の状況が良くないと言っていた。

　弥生に囚われていた間、なにも口にしていなかったのか。

　それとも、常世に足を踏み入れてしまったのか。