狐塚町にはあやかしが住んでいる

第１話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

０７－１８．

「弥生」

　旭は同情するかのように名を呼ぶ。

「その子は返してもらわなければならない」

　旭は一方的に告げた。

　縋りつくかのように意識のない美弥を抱きしめている弥生に語り掛けることもせず、ゆっくりと七尾を揺らす。

（なにか僕にできることがあるだろうか）

　このままでは旭だけで解決してしまうだろう。

（このままではいけない）

　危機感を抱く。

　しかし、動けない。

（なんとかしなければ）

　構えている刀に妖力を流し込む。

　肌に絡みつくように黒く染まっていた弥生の妖力も刀へと流れ込んでいく。

　それを求めていたのだと言わんばかりに吸い込んでいく刀は、笑っているかのような小さな音を立てていた。

（不気味なまでに馴染む。同種の鬼だからか？）

　ゆっくりと息を吐く。

　後ろには下がらない。

　背後で様子を伺っている香織を庇うように立ち尽くしている春博に視線を向けた弥生の表情が変わった。


「……ありえん」

　弥生は小さな声で否定した。

　目の前の光景を認められないと言わんばかりの表情を浮かべ、抱きしめていた美弥を放り投げた。

「美弥さん！」

　香織の悲鳴が上がる。

　その声に応えるかのように旭が動き、美弥を受け止める。

　まるで荷物のような粗雑な扱いを受けたのにもかかわらず、美弥の目は覚めない。

「状況が良くないな」

　旭は腕の中にいる美弥の顔色を確認し、眉間にしわを寄せる。