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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる
07-16.
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その眼には涙が浮かんでいる。
それでも、必死に春博の背後から名を叫ぶ。
「“あしや みや”」
香織の叫びは旭に届いたようだ。
旭は名を口にした。
その途端、お堂を守るように抵抗していた両腕に狐火が燃え広がり、瞬く間に灰となる。
「あ、ああ、あああ」
音を立て激しく揺れていたお堂の中から女性の声が聞こえた。
まるでお堂そのものに意思があるかのように、お堂の扉は開き、中から少女を腕に抱いた着物姿の女性が放り出された。
「ずいぶんと古びた姿ではないか。弥生」
旭は地面に降りる。
七尾を限界まで広げることにより春博と香織を守る姿勢をとった。
「ふん。あんたが居づらい場所にしてくれたんじゃん」
何か所も穴が開いた着物を見せつけるようにして、地面に座り込んだ女性の額の真ん中には角がある。
彼女こそが三竹山を住処としている鬼たちの頭領、弥生だ。
先ほどまでの穏やかな言葉遣いとは異なり、心の底から嫌そうな顔を浮かべている。どうやら、今の顔が本性なのだろう。
「蹴飛ばしてやろうと思ったんに」
足を投げ出し、舌を出す。
上品とは程遠い仕草をしてもなお、その美貌は人を引き付ける。
しかし、居住地としているお堂から蹴飛ばし、追い返そうとしていたと認めた弥生に対し、旭の目は冷たいものだった。
「その人間はなんだ」
「置いていかれていたもの、拾うてなにが悪い」
「迷子と放り出されたものの区別はつくはずでは?」
旭の言葉に対し、弥生は面倒そうな表情を浮かべた。
「久しぶりに顔を出したと思ったら、説教け?」
弥生は反省をしていないのだろう。
それどころか、旭が怒りに来たのだと決めつけ、不満の声をあげる。
それでも、必死に春博の背後から名を叫ぶ。
「“あしや みや”」
香織の叫びは旭に届いたようだ。
旭は名を口にした。
その途端、お堂を守るように抵抗していた両腕に狐火が燃え広がり、瞬く間に灰となる。
「あ、ああ、あああ」
音を立て激しく揺れていたお堂の中から女性の声が聞こえた。
まるでお堂そのものに意思があるかのように、お堂の扉は開き、中から少女を腕に抱いた着物姿の女性が放り出された。
「ずいぶんと古びた姿ではないか。弥生」
旭は地面に降りる。
七尾を限界まで広げることにより春博と香織を守る姿勢をとった。
「ふん。あんたが居づらい場所にしてくれたんじゃん」
何か所も穴が開いた着物を見せつけるようにして、地面に座り込んだ女性の額の真ん中には角がある。
彼女こそが三竹山を住処としている鬼たちの頭領、弥生だ。
先ほどまでの穏やかな言葉遣いとは異なり、心の底から嫌そうな顔を浮かべている。どうやら、今の顔が本性なのだろう。
「蹴飛ばしてやろうと思ったんに」
足を投げ出し、舌を出す。
上品とは程遠い仕草をしてもなお、その美貌は人を引き付ける。
しかし、居住地としているお堂から蹴飛ばし、追い返そうとしていたと認めた弥生に対し、旭の目は冷たいものだった。
「その人間はなんだ」
「置いていかれていたもの、拾うてなにが悪い」
「迷子と放り出されたものの区別はつくはずでは?」
旭の言葉に対し、弥生は面倒そうな表情を浮かべた。
「久しぶりに顔を出したと思ったら、説教け?」
弥生は反省をしていないのだろう。
それどころか、旭が怒りに来たのだと決めつけ、不満の声をあげる。
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